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翌日、あれから2~3時間しか寝ていない割にはすっきりと目が覚め、俺は清々しい朝を迎えることができた。
窓を開けると昇ったばかりの朝日はまだ半分が水面にあり、空の一部は夜の色を残していたが、冷たい済んだ空気は朝特有のものだった。
恐らく規則の起床時間まではまだ1時間程あるはず。
俺は部屋にあった司祭用の上着を一枚拝借して羽織り、早朝の散歩に出かけることにした。

浜辺に行くと静かな波音とさくさくと砂を踏む音が耳に心地よく響いた。
視線を海に転じれば、先程は半分沈んでいた太陽も、今は水面に別れを告げている。
遠く鳥の鳴き声が聞こえ、風が木を揺らせば葉の擦れ合う音さえも聞こえてくるほどの静寂。
それにより呼び覚まされるのは、孤独感。
この世界に転生したと自覚してからもうすぐ2週間になる。
自分が描き出した良く知る世界であるため初めは感じなかったそれが、今日はやけに強く感じられる。
こんな時に思い出すのは、薄情なことに家族の顔ではなく天罪チームの面々の顔だった。
『おはよう、三根君!』
いつも一番に笑顔で挨拶をしてくれる田中さん。
『あ、チーフ今会議出てますよ』
チーフを探す俺に気づき声を掛けてくれる石橋さん。
『コーヒー淹れますけど、飲む人います?』
若いのに他人への気配りを忘れない藤久仁くん。
『あ、三根さん、頭の後ろに寝癖ついてますよ』
『ほんとだ。可愛い』
俺より年上なのに後からチームに参加したからと言って敬語で話すわりには結構遠慮なく言ってくる高木さんに、高木さんと仲良しで悪ノリしてくる鈴木さん。
そして。
『悪いな三根。待たせたか?』
俺の背を叩いて豪快に笑うチーフ、永井さん。
彼らの顔が次々と空に映る。
―――会いたい。
会って、彼らと話したい。
俺だけが秘密を知っている世界なんて、重すぎる。
一度弱ってしまった心はその負荷に耐えきれなくなりそうで、負荷を涙に変えて流してしまわないとすぐに折れてしまいそうだった。
だからもう一度立ち上がるために、今は心の澱を全て流すことに集中する。

……ややして、涙が止まった俺は感傷に浸りすぎたと頭を振り、俯けていた顔を上げた。
そして視界いっぱいに広がる青い海とすっかり昇り切った太陽を見つめ、よしっと気合を入れて踵を返す。
来た時と同じように砂を踏む音を聞きながら、来た時よりも軽やかに歩を進めていく。
だが少し進んだところで来た時には気がつかなった不自然なへこみを砂浜に見つけ、歩を止める。
それは恐らく昨日の暗殺者が上陸した場所で、乗ってきた船があった跡だと思われるが、朝日に照らされたそこでキラリと光るものが目に入った。
「…これは」
どこかで見た記憶はあるが詳細を思い出せない、誰かのピアスの片方だった。

「おはようございます」
司祭用の上着を部屋に戻して食堂へ向かった俺は、朝食係として既に食堂にいたドクトとバッシルに声を掛けた。
2人とも現れたのが俺だと知ると準備を放り出してこちらに駆けてくる。
「ネージュ、おはようございます。その、よく眠れましたか?」
「おはようネージュ。嫌な夢とか、見てない?」
俺の様子を窺うように小さく掛けられた言葉は、戸惑っているようにも聞こえるが気遣われていることがわかる優しい音だった。
だからだろうか、彼らの言葉は不思議と俺の心にするりと入ってくる。
「大丈夫です。睡眠時間は普段より少ないですが、夢も見ないで眠ってすっきり目が覚めました」
ほわりと心に温かいものを感じた俺は虚勢を張ることもなく素直に言葉を返し、2人に笑顔を見せることができた。
それを見た2人もホッと息を吐き、安心したように朝食の準備へと戻って行った。
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