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『こうして こうたいしに なった あにおうじは よくとし おうさまに なりました。ちちで ある こくおうさまが なくなった のです。したっていた おうさまの しに みんなが なげき かなしみ ました。ですが さいわいにも すでに つぎの おうさまが きまっていたので もんだいは ありません。もが あけしだい そくいしきを することに なりました。』
顔に白い布がかけられた国王の周りを王子たちと家臣、そして側妃が囲んでいる。
皆が嘆き悲しみ、王の死を悼んでいるのが伝わってくる。
けれど何故そこに王妃の姿がないのだろう。
疑問に思いながらも頁を捲る。
『はんとしご あにおうじの そくいしきが おこなわれ ました。しかし そこで おうひさまが いい ました。「こくおうには おとうとおうじが ふさわしい」。かしんたちは おどろいて おうひさまを とめ ました。こくみんたちも おどろき ましたが おとうとおうじが「だいじょうぶ こくおうは あにうえだ」と いったので ぶじ そくいしきが おわり ました。』
驚く兄王子や家臣や国民の中で王妃が恐ろしい形相で兄王子を指差している。
兄王子の横に立つ弟王子だけが切なげな表情を浮かべていた。
まるでいつかこうなることを予想していたかのように。
頁を捲る。
『おうひさまは そくいしきを じゃました つみで ろうやに いれられ ました。くらくて さむい ろうやに おうひさまの こえが ひびきます。「わたくしは なんのために このくにに とついできたの? あいしたひとも くにも すてて。おうじが うまれて ようやく わたくしも しあわせに なれると おもったのに。ぜんぶ あの おんなが わるいのよ!」すると そこに だいじんが やって きました。「おうひさま わたしの いう ことを きいて くれるなら ここから だして あげましょう」おうひさまは うなずき ました。』
物語が核心に迫ってきたのだろう、怪しい動きをしていた大臣と常に暗い翳が差していた王妃がついに手を取り合った。
むしろ今まで無関係だったことに驚いたくらいだ。
もしかしたら大臣は自分の望みを叶えるために王妃の翳を利用する機会を虎視眈々と狙っていたのかもしれない。
その望みが何なのかは続きを読めばわかるはず。
少し汗が滲んできた手で頁を捲る。
『ろうから だされた おうひさまの もとに さっそく だいじんが やってきました。「おうひさま やくそくを はたして いただき ましょう」おうひさまは うなずき たずねます。「わかりました。わたくしは なにを すれば いいですか?」だいじんは にやりと わらって いい ました。「このはりを あにおうじに さしなさい」だいじんは てに もっていた おおきな はりを おうひさまに わたします。「これは なんですか?」うけとった おうひさまは ふたたび だいじんに たずねます。「きょうおうのはり です。これで あなたの のぞみは かないます」こたえた だいじんも ふたたび にやりと わらいました。』
戸惑ったような王妃と恐ろしい笑みを浮かべる大臣。
大臣の手にはマチ針よりも少しだけ大きな針があり、銀色に光るそれが妙に禍々しく描かれているせいか、明るいはずの部屋が牢の中よりも陰鬱に感じられた。
「きょうおうは、やっぱり狂王かしら?」
「恐らくそうでしょう。続きを読んだ限りでも他に合う言葉は見つからないと思いました」
自分の予想に肯定を返すアゼリアの顔を見て、この後なにが起こってしまうのか、なんとなく予想がつく気がした。
重くなった気持ちをほんの少しでも軽くするためにため息を一つ吐いてから頁を捲る。
けれど効果はあまりなかったかもしれない。
文章よりも先に挿絵に目をやってしまったのは間違いだっただろう。
でも同じ状況ならきっと万人がそうなっていたはずだ。
そこには苦しみに耐えかねたように頭を抱え涙する国王になったばかりの兄王子と、先に血の付いた『狂王の針』を手に立ち尽くして顔を青くする王妃が絵本とは思えないほどの迫力で描かれていた。
『おうひさまは だいじんに いわれた とおり あたらしい こくおうさまに きょうおうのはりを さしました。すると こくおうさまは くるしそうに あたまを おさえて いい ました。「なんだ このこえは!? あたまの なかに むすうの ひとが いるようだ! その だれも かれもが いくさを のぞんで いる!!」さわぎを ききつけた えいへいに よって おうひさまは ろうやに もどされ ました。』
そして添えられていた文章によってこの絵本の題名が何故『平和を望む戦王』なのかがわかってしまった。
本を持つ手に力が入らなくなっていき、ついに落ちたそれがバサリと大きな音を立てる。
「それより先は読んでも読まなくても結構です。平たく言えば狂王の針の声に抗えなくなった国王が弟に命じて戦を始めますが、数年後に弟が戦で亡くなったのを機に正気を取り戻し、以降はその声を意識しないよう忙しく働き続けたという話ですから」
本を拾い上げながらアゼリアは淡々と言う。
けれど先ほどの顔を思い出せば、彼女も決して冷静に読み進められたのだとは思えなかった。
だってあの時アゼリアは、モンドレー侯爵家の罪を暴いた時と同じ顔をしていたから。
顔に白い布がかけられた国王の周りを王子たちと家臣、そして側妃が囲んでいる。
皆が嘆き悲しみ、王の死を悼んでいるのが伝わってくる。
けれど何故そこに王妃の姿がないのだろう。
疑問に思いながらも頁を捲る。
『はんとしご あにおうじの そくいしきが おこなわれ ました。しかし そこで おうひさまが いい ました。「こくおうには おとうとおうじが ふさわしい」。かしんたちは おどろいて おうひさまを とめ ました。こくみんたちも おどろき ましたが おとうとおうじが「だいじょうぶ こくおうは あにうえだ」と いったので ぶじ そくいしきが おわり ました。』
驚く兄王子や家臣や国民の中で王妃が恐ろしい形相で兄王子を指差している。
兄王子の横に立つ弟王子だけが切なげな表情を浮かべていた。
まるでいつかこうなることを予想していたかのように。
頁を捲る。
『おうひさまは そくいしきを じゃました つみで ろうやに いれられ ました。くらくて さむい ろうやに おうひさまの こえが ひびきます。「わたくしは なんのために このくにに とついできたの? あいしたひとも くにも すてて。おうじが うまれて ようやく わたくしも しあわせに なれると おもったのに。ぜんぶ あの おんなが わるいのよ!」すると そこに だいじんが やって きました。「おうひさま わたしの いう ことを きいて くれるなら ここから だして あげましょう」おうひさまは うなずき ました。』
物語が核心に迫ってきたのだろう、怪しい動きをしていた大臣と常に暗い翳が差していた王妃がついに手を取り合った。
むしろ今まで無関係だったことに驚いたくらいだ。
もしかしたら大臣は自分の望みを叶えるために王妃の翳を利用する機会を虎視眈々と狙っていたのかもしれない。
その望みが何なのかは続きを読めばわかるはず。
少し汗が滲んできた手で頁を捲る。
『ろうから だされた おうひさまの もとに さっそく だいじんが やってきました。「おうひさま やくそくを はたして いただき ましょう」おうひさまは うなずき たずねます。「わかりました。わたくしは なにを すれば いいですか?」だいじんは にやりと わらって いい ました。「このはりを あにおうじに さしなさい」だいじんは てに もっていた おおきな はりを おうひさまに わたします。「これは なんですか?」うけとった おうひさまは ふたたび だいじんに たずねます。「きょうおうのはり です。これで あなたの のぞみは かないます」こたえた だいじんも ふたたび にやりと わらいました。』
戸惑ったような王妃と恐ろしい笑みを浮かべる大臣。
大臣の手にはマチ針よりも少しだけ大きな針があり、銀色に光るそれが妙に禍々しく描かれているせいか、明るいはずの部屋が牢の中よりも陰鬱に感じられた。
「きょうおうは、やっぱり狂王かしら?」
「恐らくそうでしょう。続きを読んだ限りでも他に合う言葉は見つからないと思いました」
自分の予想に肯定を返すアゼリアの顔を見て、この後なにが起こってしまうのか、なんとなく予想がつく気がした。
重くなった気持ちをほんの少しでも軽くするためにため息を一つ吐いてから頁を捲る。
けれど効果はあまりなかったかもしれない。
文章よりも先に挿絵に目をやってしまったのは間違いだっただろう。
でも同じ状況ならきっと万人がそうなっていたはずだ。
そこには苦しみに耐えかねたように頭を抱え涙する国王になったばかりの兄王子と、先に血の付いた『狂王の針』を手に立ち尽くして顔を青くする王妃が絵本とは思えないほどの迫力で描かれていた。
『おうひさまは だいじんに いわれた とおり あたらしい こくおうさまに きょうおうのはりを さしました。すると こくおうさまは くるしそうに あたまを おさえて いい ました。「なんだ このこえは!? あたまの なかに むすうの ひとが いるようだ! その だれも かれもが いくさを のぞんで いる!!」さわぎを ききつけた えいへいに よって おうひさまは ろうやに もどされ ました。』
そして添えられていた文章によってこの絵本の題名が何故『平和を望む戦王』なのかがわかってしまった。
本を持つ手に力が入らなくなっていき、ついに落ちたそれがバサリと大きな音を立てる。
「それより先は読んでも読まなくても結構です。平たく言えば狂王の針の声に抗えなくなった国王が弟に命じて戦を始めますが、数年後に弟が戦で亡くなったのを機に正気を取り戻し、以降はその声を意識しないよう忙しく働き続けたという話ですから」
本を拾い上げながらアゼリアは淡々と言う。
けれど先ほどの顔を思い出せば、彼女も決して冷静に読み進められたのだとは思えなかった。
だってあの時アゼリアは、モンドレー侯爵家の罪を暴いた時と同じ顔をしていたから。
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