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まずは読んでみましょう
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アゼリアに「どうぞ」と渡された本を見る。
子供向けといえど王族用らしく重厚な装丁が施されたその本は見た目以上に重かった。
題名は『平和を望む戦王』というらしい。
表紙には剣を高く掲げながら涙する豪奢な衣装の男性が描かれていた。
子供が床に置いて眺められるようにだろうか、大きめなその本の表紙と中紙を捲れば大きな文字と挿絵が目に入る。
『あるところに ひとりの せいねんが すんで いました。かれは からだが おおきく むらの だれよりも ちからもちで やさしい こころを もって いました。』
読みやすいようにか所々に隙間が設けられた文章。
その横には多くの人々と、他の人間よりも頭一つ分背が高くて体格のいい青年が優しく笑う絵が描かれていた。
文章と挿絵が見開きで描かれているため頁を捲る。
『こまっている ひとが いれば ほうっては おけない やさしい せいねんは いつも だれかを たすけて いました。そのうちに むらは まちになり まちは みやこに かわって いきました。ひとがふえ いえがふえ みせがふえ むらだった ころの けしきが かわっても かれの やさしさは かわりません でした。』
挿絵では発展し都となった場所でも変わらず優しい笑みを浮かべる青年が人々に囲まれている。
頁を捲る。
『あるとき だれかが いい ました。「これだけ ひとが ふえたんだ。ここを くにに しよう。」そのことばに みんなが うなずき ました。「こくおうは だれが いいだろう?」「かれが いいよ!」「そうだ、かれしか いない!」そういって みんなが ゆびを さしたのは あの こころ やさしい せいねん でした。』
人々が一様に青年を指差している絵。
しかし今度の彼はそれに戸惑っているような表情を浮かべている。
頁を捲る。
『「ぼくには むりだよ。」せいねんは いい ましたが だれも はなしを きいて くれません。あれよあれよと いうまに かれは このくにの こくおうと なりました。』
王宮の大広間のようなところで皆が楽しく踊っている絵が描かれていた。
けれどぽつんと離れた玉座では青年が困り果てた顔をしている。
頁を捲る。
『それから なんねんか たって おうさまは けっこん しました。おうひさまに なった きれいな おんなのこは となりの くにの おうじょさま でした。』
笑顔の参列者が並ぶ幸せそうな結婚式の風景。
けれど肝心の新郎は困った顔で、新婦は悲しげな顔で描かれていた。
頁を捲る。
『さらに 3ねんが たちました。けれど おうさまには こどもが できません。おうひさまは じぶんの せいだと なきました。おうさまは「きみの せいじゃないよ」といいますが おうひさまは きいて くれません。すると だいじんが いいます。「おうひさまを あんしん させるために もうひとり きさきを むかえ ましょう。」おうさまは うなずき ました。』
さめざめと泣く王妃とおろおろする国王、その後ろに進言したと思しき大臣が描かれている。
私の気のせいでなければ、その大臣の顔に浮かんでいる笑みは奸臣のそれだ。
頁を捲る。
『1ねんご おうさまと あたらしい そくひさまの あいだに おうじさまが うまれ ました。「やさしい おうさまの こどもだから あのこも きっと やさしい おうに なる」とこくみんは おおよろこび。みんなが はしゃぎ おどります。ただし おうひさまを のぞいて』
急に文章が不穏になる。
挿絵も笑顔を浮かべる国王と側妃と王子を笑顔の国民が囲むものだが、右奥の暗がりで王妃が涙を流しながらそれを見ているというものだ。
頁を捲る。
『その2ねんご ようやく おうひさまも おうじを さずかり ました。こくみんは ふたたび よろこび おどります。けれど おうさまは よろこびながら ふあんでも ありました。「しょうらいは どちらの おうじに くにを つがせる べきか。」いまは まだ そのこたえが でません でした。』
悩む国王の左右で王妃と側妃がそれぞれの王子を抱えて微笑んでいる。
しかし二人の表情は対照的で、側妃は朗らかに描かれていたが、王妃にはどこか影があった。
頁を捲る。
『それから20ねん。したの おうじが 20さいに なった そのひ こくおうさまは みんなの まえで おうじたちに たずね ました。「おまえたちは どちらが こくおうに ふさわしいと おもう?」あにおうじが こたえます。「わたしは ないせいが とくいですが おとうとは ぶりょくに すぐれます。どちらが おうでも たがいに ささえあえば よいくにが できる でしょう。」おとうとおうじが こたえます。「わたしは たたかう ことしか できません。おうには あにうえが なるべきです。」おうさまは ふたりの はなしに なっとくして かしんたちに いいました。「つぎの おうは あにおうじだ。」かしんたちも おうじたちの はなしを きいていたので なっとく しました。』
大きくなった兄弟たちが手を取り合っている。
その後ろには老いた国王が立っていて、それを囲むように家臣の一団が諸手を上げて喜ぶ様子が描かれていた。
「あ」
その中にあの奸臣もしっかりと描かれている。
さらに奥には悔しげな顔をする王妃もしっかりと描かれていた。
先ほどから気になっていたが、これらにも意味があるのだろうか?
疑問に思いながらも私はまた頁を捲った。
子供向けといえど王族用らしく重厚な装丁が施されたその本は見た目以上に重かった。
題名は『平和を望む戦王』というらしい。
表紙には剣を高く掲げながら涙する豪奢な衣装の男性が描かれていた。
子供が床に置いて眺められるようにだろうか、大きめなその本の表紙と中紙を捲れば大きな文字と挿絵が目に入る。
『あるところに ひとりの せいねんが すんで いました。かれは からだが おおきく むらの だれよりも ちからもちで やさしい こころを もって いました。』
読みやすいようにか所々に隙間が設けられた文章。
その横には多くの人々と、他の人間よりも頭一つ分背が高くて体格のいい青年が優しく笑う絵が描かれていた。
文章と挿絵が見開きで描かれているため頁を捲る。
『こまっている ひとが いれば ほうっては おけない やさしい せいねんは いつも だれかを たすけて いました。そのうちに むらは まちになり まちは みやこに かわって いきました。ひとがふえ いえがふえ みせがふえ むらだった ころの けしきが かわっても かれの やさしさは かわりません でした。』
挿絵では発展し都となった場所でも変わらず優しい笑みを浮かべる青年が人々に囲まれている。
頁を捲る。
『あるとき だれかが いい ました。「これだけ ひとが ふえたんだ。ここを くにに しよう。」そのことばに みんなが うなずき ました。「こくおうは だれが いいだろう?」「かれが いいよ!」「そうだ、かれしか いない!」そういって みんなが ゆびを さしたのは あの こころ やさしい せいねん でした。』
人々が一様に青年を指差している絵。
しかし今度の彼はそれに戸惑っているような表情を浮かべている。
頁を捲る。
『「ぼくには むりだよ。」せいねんは いい ましたが だれも はなしを きいて くれません。あれよあれよと いうまに かれは このくにの こくおうと なりました。』
王宮の大広間のようなところで皆が楽しく踊っている絵が描かれていた。
けれどぽつんと離れた玉座では青年が困り果てた顔をしている。
頁を捲る。
『それから なんねんか たって おうさまは けっこん しました。おうひさまに なった きれいな おんなのこは となりの くにの おうじょさま でした。』
笑顔の参列者が並ぶ幸せそうな結婚式の風景。
けれど肝心の新郎は困った顔で、新婦は悲しげな顔で描かれていた。
頁を捲る。
『さらに 3ねんが たちました。けれど おうさまには こどもが できません。おうひさまは じぶんの せいだと なきました。おうさまは「きみの せいじゃないよ」といいますが おうひさまは きいて くれません。すると だいじんが いいます。「おうひさまを あんしん させるために もうひとり きさきを むかえ ましょう。」おうさまは うなずき ました。』
さめざめと泣く王妃とおろおろする国王、その後ろに進言したと思しき大臣が描かれている。
私の気のせいでなければ、その大臣の顔に浮かんでいる笑みは奸臣のそれだ。
頁を捲る。
『1ねんご おうさまと あたらしい そくひさまの あいだに おうじさまが うまれ ました。「やさしい おうさまの こどもだから あのこも きっと やさしい おうに なる」とこくみんは おおよろこび。みんなが はしゃぎ おどります。ただし おうひさまを のぞいて』
急に文章が不穏になる。
挿絵も笑顔を浮かべる国王と側妃と王子を笑顔の国民が囲むものだが、右奥の暗がりで王妃が涙を流しながらそれを見ているというものだ。
頁を捲る。
『その2ねんご ようやく おうひさまも おうじを さずかり ました。こくみんは ふたたび よろこび おどります。けれど おうさまは よろこびながら ふあんでも ありました。「しょうらいは どちらの おうじに くにを つがせる べきか。」いまは まだ そのこたえが でません でした。』
悩む国王の左右で王妃と側妃がそれぞれの王子を抱えて微笑んでいる。
しかし二人の表情は対照的で、側妃は朗らかに描かれていたが、王妃にはどこか影があった。
頁を捲る。
『それから20ねん。したの おうじが 20さいに なった そのひ こくおうさまは みんなの まえで おうじたちに たずね ました。「おまえたちは どちらが こくおうに ふさわしいと おもう?」あにおうじが こたえます。「わたしは ないせいが とくいですが おとうとは ぶりょくに すぐれます。どちらが おうでも たがいに ささえあえば よいくにが できる でしょう。」おとうとおうじが こたえます。「わたしは たたかう ことしか できません。おうには あにうえが なるべきです。」おうさまは ふたりの はなしに なっとくして かしんたちに いいました。「つぎの おうは あにおうじだ。」かしんたちも おうじたちの はなしを きいていたので なっとく しました。』
大きくなった兄弟たちが手を取り合っている。
その後ろには老いた国王が立っていて、それを囲むように家臣の一団が諸手を上げて喜ぶ様子が描かれていた。
「あ」
その中にあの奸臣もしっかりと描かれている。
さらに奥には悔しげな顔をする王妃もしっかりと描かれていた。
先ほどから気になっていたが、これらにも意味があるのだろうか?
疑問に思いながらも私はまた頁を捲った。
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