婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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逆転の兆し

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アゼリアはふ、と小さく息を吐き、「どこから話しましょうか」と呟いてからその推測に至った思考の道筋を説明し始めた。
「まずは…そうですね、あの男が初めて殿下とお会いした時にどこかの隠し通路を使ったという話からですが」
顎に手を当てたアゼリアはちらりと周囲を見回す。
「その時の歴史では殿下が討たれ、我が国はガルディアナに下ったのだと思います。但しその勝利の裏にはきっと何度も繰り返したという歴史の中で男が試行錯誤して導き出した必勝法のようなものがあったはずです。でなければガルディアナ如き小国が我が国を落とすなど万に一つもあり得るはずがない」
ですよね?と言うようにアゼリアは侯爵とルード様を見る。
侯爵は「確かに戦力差を考えればあり得ない話である」と深く頷いたし、殿下も「それは俺も不思議だった。何故ガルディアナ兵がああも容易く我が城に侵入し、瞬く間に制圧していったのか。なるほど、そう考えれば辻褄が合う」と納得した。
ちなみに彼らはさも当然のように言っているが、これが私の祖国マリシティであったならばガルディアナからの侵攻は間違いなく脅威でしかなく、然程善戦もしないまま国は滅ぶだろう。
実際あの時もその後も、マリシティはガルディアナに滅ぼされているのだから疑いようもない。
ガルディアナという国はそれほどの脅威で、オークリッドという国はそれほどの大国なのだ。
よく私のような小国の、たかが侯爵令嬢に過ぎない女が王太子妃になどなれたものだと今更ながらに思ってしまう。
「とはいえ、たとえ圧倒的に不利な状況だとしても何十、何百と回数を重ねれば我が軍の穴が見えてくるだろう。そしてその内に惨敗は惜敗になり、相討ち、辛勝と状況が変わっていく。一度でも勝ってしまえばこの城の秘密は暴かれ、その次からの勝利は揺るがないものとなったはずだ」
「仰る通りです」
ルード様は悔し気に目を閉じる。
自分の一度目の人生最期の戦いを振り返っているのかもしれない。
「つまりあの男はこの城の秘密を握っています。その上で『今回で終わる』『時が満ちれば』などと発言していることから、ガルディアナでの準備が終われば早晩兵を率いてこちらに攻め込むつもりなのだろうと推測されます。あの男が逃げ去った方角にあるグラッドとガルディアナは隣国ですし」
その横でアゼリアは淡々と説明を続ける。
「どのようにガルディアナ軍を率いるに至るのか、それはまだわかりません。しかし実際過去というか未来というかには成し遂げているのですから、それもなにか成功する道筋があるのでしょう」
「そう考えるのが妥当か」
今のところアゼリアの話には確証はないが、かといって矛盾はないように思える。
だからこそ侯爵も再び頷いたのだろうが、それでも私には一つの疑問があった。
「でもガルディアナって皇帝の権力が異常なほど強いわよね?独裁政権ここに極まれりって感じだったはずなのだけれど、一体どうやったらそこに介入できるのかしら?」
それはガルディアナという国の特性。
彼の国は類を見ないほどに皇帝に権力が集中している。
何をするにも皇帝の裁可が必要で、それは軍においても変わりないはず。
部外者の男が我こそはと名乗りをあげたところで相手にされるなどとは思えないのだが。
「それは流石に私にも見当がついていません。むしろそれがわかればあの騎士を止める一助になるかもしれないの」
そこで不自然に俯いたアゼリアの言葉と動きが止まった。
まるで彼女の周りだけ時が止まったかのようだ。
「……アゼリア?」
ややして呼び掛けると、彼女はガバリと顔を上げた。
その顔にある双眼は今まで見たことがないほどに大きく見開かれている。
「エディノス・ユングル、異国見聞録、各国逸話大全…」
アゼリアがぼそりと呟く。
それは時戻しの短剣について記載があった希少本の名前だった。
特にあの騎士の祖父に当たりそうな人物がエディノス・ユングルにそのことを話している各国逸話大全の方は持っているだけで命を狙われるような代物だと言っていた。
だから座長は事故に見せかけて殺されたのかもしれないと。
それは何故だったか。
この本には為政者にとって不都合な内容が記されているからだと、アゼリアは言っていなかっただろうか。
「……まさか!?」
あの騎士はあの本に載っていた情報で、ガルディアナの皇帝を脅したというのだろうか。
「恐らくそうでしょう」
アゼリアは笑う。
ニヤリと、いっそ極悪と言ってもいい顔で。
「つまりあの本を詳しく読み解けば、あの男が見つけた皇帝を脅かせる情報を私たちも得られるかもしれません」
アゼリアは勢いよく立ち上がり、「こうしてはおられませんね!すぐに情報を持って参ります!!」と言って勢いよく部屋を出て行った。
おかげで私が呆気に取られている面々に事情を説明する羽目になってしまった。
それでもアゼリアなら必ず手がかりを見つけてくれるはずだと、私は見え始めた希望に安堵した。
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