婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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刺した理由

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「こちらが件の似姿です」
「待て、この状況だと話が入ってこない」
「殿下の都合など知ったことではありませんね」
あの後なんとかアゼリアと侯爵を説得して4人で話をすることにしたのだけれど、私たちは今何とも不思議な配置で座っている。
テーブルの短辺に用意された一人掛けのソファにルード様、これはまだいい。
そこから直角に曲がった長辺に用意された三人掛けのソファの中央にアゼリアがいて、その両側に私と侯爵が座っているのだ。
私はルード様から最も遠い端にいるため、今のようにアゼリアがテーブルに身を乗り出すと全く話に入れないしルード様の姿を見ることすら難しくなる。
え、ホントに何なのこの配置。
「おいアゼリア、俺だって状況くらいは弁えて」
「殿下、先ほどアンネローゼ様はこの似姿をご覧になって倒れられたのです。また倒れることはなくともなるべく視界に入れないように配慮するべきだとは思いませんか?」
同じように思ったのかルード様はアゼリアに弁明しようとしたようだが、その言葉は途中で遮られた。
この短時間でまた不敬を重ねたアゼリアだがその言葉は尤もだと思われたようで、ルード様もそれ以上は何も言わなかった。
もしかしたらアゼリアは最初から私に配慮していたのかもしれない。
けれどそれを言ったら私が気にするから今まで言わないようにしていた…?
「そうだな、すまん…」
「おわかりいただければ良いのです」
ルード様も同じ考えたのかバツが悪そうな気持ちが声に滲んでいる。
だから素直にアゼリアに謝罪したのだろうが、
「別にまだ気怠げなアンネローゼ様のお姿を隠すだけが目的ではないのですよ」
「やっぱりそっちが本音じゃないか!!」
続いた言葉にまた声を大きくしたのだった。
さておき。
「さて問題の似姿だが」
ルード様は「こほん」とわざとらしく咳払いをし、ミンディが描いた似姿を手元に引き寄せる。
そしてじっくり眺め「なるほど」と呟くと、
「この黒子に見覚えがある。恐らくこいつは初めての生で俺に『時戻しの短剣』を突き刺した男だな」
トントンと黒子を指で叩いて早々にそう結論を出した。
「この絵でわかるのですか?」
当然侯爵はそんなにすぐ結論を出していいのかと言わんばかりに問うたが、言われたルード様はぱちくりと瞬く。
「これだけ描けていればわかるだろう?」
そして事も無げにそう言ってのけた。
これには私も侯爵も、もちろんアゼリアも唖然としてしまった。
だがお陰でわかったことが一つある。
あの騎士は私を刺した後ガルディアナで騎士を続けて、戦火の中でルード様にも時戻しの短剣を突き刺したのだ。
それが何故なのかはまだわからない。
でも推測することは可能だ。
その材料が私たちにはあるのだから。
「あの騎士はもしかして、ルード様を恨んでいた?」
先日読んだ『各国逸話大全』によればウィルドという騎士は『騎士のやり直し物語』で描かれていた王女と騎士の子孫であるらしい。
そのウィルドとあの騎士の関係はわからないが、少なくとも時戻しの短剣を持っている時点で他人ではないだろう。
一番可能性が高いのは子供、いや年齢から察するに孫あたりか。
「そうですね、もしかしたらその地位にいたのは自分だと思っているのかもしれません」
「滅多にあることではありませんから、降嫁した王女の子孫は王族に入れないと知らないのでしょうな」
「そもそも第二王女だという時点で後継はあり得ないと思うんだがな。だからこそ降嫁が認められたのだろうし」
私の言葉に三人はため息を吐く。
王位継承権第一位の王太子、侯爵家の家長、伯爵家の才女からすれば馬鹿げた話に思えるかもしれない。
王位を継ぐのに必要なのは血統だけではないと知っているから。
けれどそれは内側を知っているからで、外側しか見えない人にとっては王族の血さえ流れていれば王位継承権を得られるのだと勘違いしていても不思議ではない。
しかしだ。
「だからと言って何故時戻しの短剣をルード様に突き刺す必要があったのかしら?」
その理由がいまいちわからない。
あの騎士が勘違いの挙句に王位は自分のものだと思っていたからルード様を弑し自分が王位を得ようとしたならば、それはまだギリギリで理解できる。
だが何故そこで時を戻すと言われている短剣を使ったのか。
刺した相手が時を戻って自分に害をなすとは考えなかったのだろうか。
絶対に見つからない自信があった?
それにしても、何かがおかしい。
「それに」
あの騎士が私に言った「来世で」という言葉。
それは文字通りの『生まれ変わった先の世』ではなく巻き戻った後の世界のことを指すとしたら。
「……あの騎士は巻き戻って私と結婚するつもりだった。王になるつもりだった。そしてルード様を刺している」
それが示すことは。
「自分を殺したはずの男が王位について私と結婚するところをルード様に見せたがっていた…?」
なんて、そんな馬鹿な。
さすがに意味がなさすぎる推測だ。
はは、と自分の思いつきが突拍子もなさ過ぎて、浮かび上がってくる呆れが苦笑として口から零れていく。
「ははは、は……」
なのに、どうしてかしら。
そんな意味のない推測が核心を突いているような気がするのは。
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