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まずは読んでみようと思います
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『翌日、私はグレッグに聞いた騎士団の詰め所を訪ねた。件の同僚とやらには先に会いたがっている人がいると話しておくので後は当人たちで相談してくれとのことだった。いくら腕に自信のある騎士とはいえ、素性も知れぬ私を随分と簡単に信じて紹介してくれたものだ。尤も騎士団の詰め所で細腕の私に何ができようかという話だが。さておき、私は入り口の近くに立っていた若い騎士にウィルドという名の騎士を訪ねてきた旨を伝えた。すると男は「ウィルドは自分だ」と答え、そのまま詰所から出た。どうやら私のことを待っていてくれたらしい。しかも彼は大言壮語を吐く適当な人物かと思いきやそんなことは全くない、むしろ規律を守る模範的な騎士といった雰囲気だ』
頁をめくる。
『彼は詰め所の横に回ると背を壁に預け「それで、俺に何の用だ?」と私に水を向けた。グレッグはそこまでの世話を焼いてはくれなかったらしい。私は彼にグレッグからの話を聞き彼の血筋に興味を持ったこと、できれば詳しく話を聞きたいと思っていることを伝える。しかし当然彼は頷かず、どころか私が彼を馬鹿にしていると思ったらしい。まあ確かに初めはそう思っていたのだから否定はできないが、さりとて彼と接した今はそう思っていないのだから誤解だと伝えなければならない。私は自分が世界各国を旅していること、その土地の文化や風土を記し広く伝えるために本を書くつもりでいること、そしてその最中に出会った『世間には知られていない秘された歴史』を集めるのが趣味であることを正直に伝えた』
「……秘された歴史?」
その言葉で私は思い出した。
この著者の名前が、とても懐かしい思い出に繋がっていたことを。
「……座長」
そうだった、いつも貴方が聞かせてくれていた物語は、その著者は……。
一瞬で涙がせり上がってきそうになる。
思いがけず触れた、私の大切な、愛おしい時間たちを思い出してしまう。
けれど今は思い出に浸っている場合ではない。
私は深く息を吐いて涙を抑えると、また文章に目を落とした。
『彼は完全に私を信じたわけではないだろう。それでも私が彼の話を聞きたいと言ったのが冷やかしではないことは伝わったらしい。その日は夜勤だから翌日の夜でもよければグレッグに紹介された酒場で話してくれるというので、私はこの街の滞在予定を一日伸ばすことにして頷いた』
ここからまたしばらく関係のない話が続く。
そちらはまた目を滑らすだけで、目的の部分まで十枚ほど頁をめくった。
『ウィルドは酒場で待つ私を見て少しだけ驚いた顔をしていた。一方の私も彼がちゃんと来てくれたことに安堵していたのでお互い様だ。彼は席に着くとロジッタワイネというこの地方の名産品である赤い果実酒を頼んだ。私が飲んでいるのも同じ果実酒だが、こちらは果肉が白いもので作られているブランクワイネだ。それから彼が二品ほど食事にもなりそうなつまみを追加で頼む。騎士の割に食べない男だと思っていたら「今日は非番だからな」とのことで、そういう日は体を休めるためにあまり重いものは食べないらしい。彼のワイネが届いたところで乾杯し、本題に入る。私の「グレッグから君がとある大国の王族の血を引いていると聞いたのだが、事実だろうか?」という直接的な問いに彼は「そうだ」と簡潔に答える。長期の旅の最中に様々な人物から話を聞いて回っているせいか、いつからか私は口調や語気でその人物が本当のことを言っているのか嘘を吐いているのか誤魔化そうとしているのかがわかるようになっていたが、その私の勘が彼は真実のみを語っていると告げていた。つまり彼は本当にどこかの王族の子孫だということだ。正確に言えば彼が真実そう思っているだけという話だが、けれどこの生真面目そうな青年が確信を持ってそう断言できる何かがあるということだろう。これは凄いことになった。今までにも領主や旧国の王の実態を暴いたことはあるが、全て過去のことに過ぎなかった。しかし彼は今生きて私の目の前にいる!こんなに素晴らしいことがあるだろうか』
そこまで読み進めたところでエルが紅茶を淹れてくれたのでそっと口に含む。
じんわりと温かいそれがいつの間にか心に蟠っていた靄を少しだけ晴らしてくれた気がした。
それに力をもらい、私は重くなり続ける気をしっかりと持ち直し、続きへと目を走らせた。
頁をめくる。
『彼は詰め所の横に回ると背を壁に預け「それで、俺に何の用だ?」と私に水を向けた。グレッグはそこまでの世話を焼いてはくれなかったらしい。私は彼にグレッグからの話を聞き彼の血筋に興味を持ったこと、できれば詳しく話を聞きたいと思っていることを伝える。しかし当然彼は頷かず、どころか私が彼を馬鹿にしていると思ったらしい。まあ確かに初めはそう思っていたのだから否定はできないが、さりとて彼と接した今はそう思っていないのだから誤解だと伝えなければならない。私は自分が世界各国を旅していること、その土地の文化や風土を記し広く伝えるために本を書くつもりでいること、そしてその最中に出会った『世間には知られていない秘された歴史』を集めるのが趣味であることを正直に伝えた』
「……秘された歴史?」
その言葉で私は思い出した。
この著者の名前が、とても懐かしい思い出に繋がっていたことを。
「……座長」
そうだった、いつも貴方が聞かせてくれていた物語は、その著者は……。
一瞬で涙がせり上がってきそうになる。
思いがけず触れた、私の大切な、愛おしい時間たちを思い出してしまう。
けれど今は思い出に浸っている場合ではない。
私は深く息を吐いて涙を抑えると、また文章に目を落とした。
『彼は完全に私を信じたわけではないだろう。それでも私が彼の話を聞きたいと言ったのが冷やかしではないことは伝わったらしい。その日は夜勤だから翌日の夜でもよければグレッグに紹介された酒場で話してくれるというので、私はこの街の滞在予定を一日伸ばすことにして頷いた』
ここからまたしばらく関係のない話が続く。
そちらはまた目を滑らすだけで、目的の部分まで十枚ほど頁をめくった。
『ウィルドは酒場で待つ私を見て少しだけ驚いた顔をしていた。一方の私も彼がちゃんと来てくれたことに安堵していたのでお互い様だ。彼は席に着くとロジッタワイネというこの地方の名産品である赤い果実酒を頼んだ。私が飲んでいるのも同じ果実酒だが、こちらは果肉が白いもので作られているブランクワイネだ。それから彼が二品ほど食事にもなりそうなつまみを追加で頼む。騎士の割に食べない男だと思っていたら「今日は非番だからな」とのことで、そういう日は体を休めるためにあまり重いものは食べないらしい。彼のワイネが届いたところで乾杯し、本題に入る。私の「グレッグから君がとある大国の王族の血を引いていると聞いたのだが、事実だろうか?」という直接的な問いに彼は「そうだ」と簡潔に答える。長期の旅の最中に様々な人物から話を聞いて回っているせいか、いつからか私は口調や語気でその人物が本当のことを言っているのか嘘を吐いているのか誤魔化そうとしているのかがわかるようになっていたが、その私の勘が彼は真実のみを語っていると告げていた。つまり彼は本当にどこかの王族の子孫だということだ。正確に言えば彼が真実そう思っているだけという話だが、けれどこの生真面目そうな青年が確信を持ってそう断言できる何かがあるということだろう。これは凄いことになった。今までにも領主や旧国の王の実態を暴いたことはあるが、全て過去のことに過ぎなかった。しかし彼は今生きて私の目の前にいる!こんなに素晴らしいことがあるだろうか』
そこまで読み進めたところでエルが紅茶を淹れてくれたのでそっと口に含む。
じんわりと温かいそれがいつの間にか心に蟠っていた靄を少しだけ晴らしてくれた気がした。
それに力をもらい、私は重くなり続ける気をしっかりと持ち直し、続きへと目を走らせた。
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