婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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あの噂は私にとってみれば

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「アンネローゼ様は最近マリー様、マルグリット・ライスター公爵令嬢様と仲が良いと聞いていたのですけれど、今日はご一緒ではありませんの?」
メアリーは早速とばかりに私にマリー様の所在を訊ねる。
遠慮なく話し掛けろとは言ったが、いきなり遠慮も思慮もなさ過ぎる質問だ。
「ああ、ええ、そうですわね、マルグリット様とは何度かお話をさせていただいたことがございますが、せっかくですからもっと多くの方とお話ししてみたいと思いまして」
私の歯切れの悪い回答と顰められた眉(もちろん演技だ)を見てメアリーとミンディの顔に勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
それを見たメルティは嬉しそうだが、アゼリアは何を考えているのかわからない顔だ。
「そうですわよね!一人の方からのお話しだけではこの国に関する知識も偏ってしまいそうですし」
「メアリー様も才媛と名高い方ですから、きっとアンネローゼ様にとっていいご友人となりますわ!」
「ふ……っ」
ちょっと、突然笑わせにくるのやめてくれる?
どこの誰が才媛だというの。
お陰で少しだけ口から息が漏れてしまった。
「……まあ、そうなんですの?頼もしいわ」
内心のツッコミを必死で押し止め、崩れそうになる笑顔を何とか保ちながら感心した風を装って手を叩く。
しかし堪え切れなそうになったので気持ちを落ち着かせようと視線をメアリーから逸らせば、その先にいた澄まし顔のアゼリアの肩が小刻みに震えている気がした。
あれ絶対私と同じ理由よね?
「あら、それなら私よりもアゼリアの方が適任ではなくて?我が国で一番の才女と言えばアゼリアでしょう」
ミディの煽てに気を良くしながらも、一応自分の実力を理解しているのかメアリーはアゼリアを振り向くが、急に「そうよね、アゼリア?」と話を振られたアゼリアは慌てて取り繕い「は、あ、いえ、私などとても…」と謙遜している。
だが国一番の才女と言われているほどならば、やはり私が思った通り彼女は油断ならない相手なのだろう。
「でしたらいずれお話を聞かせていただきたいわ」
話を合わせるためにアゼリアにそう言って微笑めば、彼女はにこりと笑って「是非」と答える。
意外にもその笑みに敵意は全く含まれていなかった。
「そういえばアンネローゼ様と殿下の出会いってどんな感じだったんですか?」
「え?」
それを訝しむ間もなく今度はメルティが私に声を掛けてくる。
彼女は愛らしい顔でにこにこと笑いながら身を乗り出さんばかりの勢いだ。
「なんかいろんな噂があるんですけど、どれが本当なのか知りたくて」
「噂、ですか」
私がそれに内心「来た!」と思っていることがバレないように、しかしいずれかの噂は聞いたことがあると匂わせるように顔を顰めれば、すかさずミンディが口を挟んだ。
「すみませんアンネローゼ様、メルったらお二人の出会いが運命的だったからってすっかり夢中になってしまって」
許してやってくださいねと彼女を庇いながらもその目はやはり歪だった。
その目を見ているとこの馬鹿げた作戦を考えたのはメアリーじゃなくミンディの方だったのではないかと思える。
「いえ、私もつい先日噂話の1つを聞いたばかりで、なんとお答えしたものかと」
私は苦笑を浮かべるが、警戒対象が変わったことで少しだけ肩から力が抜けた。
相手が侯爵令嬢から伯爵令嬢に変わるだけだが、その『だけ』が重要だった。
だって伯爵家ならあのジスと同じ家格で、容赦なく叩き潰せるもの。
「あら、その噂とは?」
メアリーが持っていた扇を広げ口元に当てる。
思わず笑ってしまう口元を隠したいのだろうか。
「是非お聞かせいただきたいですわ」
そう言ったメアリーの声には愉悦が滲んでいたが、それを隠せない人間に腹芸は絶対にできない。
私はため息を堪えて曖昧に微笑んで見せつつ、はっきりと言った。
「いえ、取るに足らないくだらない話でしたので、もう忘れましたわ」
余裕に満ちた顔で「ほほほ」と笑うおまけ付きで。
それまで装っていた戸惑いや苦笑いなどはもう不要とばかりに取っ払ったその顔を見た4人の顔は三者三様ならぬ四者二様だった。
メアリーとミンディ、メルティはポカンとした顔で、アゼリアはやはりと言いたげな顔で肩を竦めている。
「取るに足らない…?」
「く、くだらない!?」
「え?ええ?」
そして同じ反応をしていた3人のその後の表情は今度こそ三者三様だ。
ポカンとしたままのメアリーは疑問を浮かべた顔で、黒幕と思しきミンディは私の言い様に怒りを滲ませた顔で、その2人を見てメルティは意味がわからないという顔でおろおろしているばかり。
言っては何だが詰めが甘すぎる。
不測の事態に全く対応ができないなんて。
「そうですね、くだらないと思いました」
私は紅茶を一口啜り、勿体ぶるようににっこりと笑う。
こういう時、決して絶やしてはいけないのは余裕のある笑顔だ。
「失礼ですが、どういう意味かお伺いしても?」
間違っても目の前のミンディのように頬を引き攣らせてはいけない。
何よりその言い方では私が聞いた噂の内容をすでに自分は知っているのだと白状しているようなものだ。
「構いませんが、聞いても面白くない話ですよ?」
「けっこうですわ」
いつしか取り繕うことも忘れたのか、私に対峙する人間はミンディになっていた。
そのせいで担ぎ上げていたメアリーは取り残されているが、それを気にする余裕もないようだ。
「私が聞いた噂は『殿下がマリシティに入り込んだ間者を見抜くことができたのは間者と懇ろな関係になったからだ』というものでしたわ」
「ええ、私たちもその噂を聞いたことがありまして、とても心配していたのですよ」
私がマリー様に聞いた噂を口にすれば、ミンディは強く頷く。
こんなにも嘘くさい同意も珍しいなと思いながら私は彼女の言葉に問い返す。
「心配?何故です?」
「だってもしそれが本当なら」
「本当なら?」
「あ、アンネローゼ様がお可哀想ではありませんか!」
「何故?」
「な、何故って…」
私に問い返されると思っていなかったのか、ミンディは焦ったように早口で捲し立てた。
それでも重ねて問えば彼女はメアリーと同じように扇で顔を隠す。
「あのお話、結局私にとってみれば殿下が私を選んだという、ただそれだけのお話では?」
「え…」
構わず私が言葉を重ねれば、扇の陰に隠した顔を驚愕に染めてミンディは私の目を見た。
「違いますか?その前に何があったとて、私に出会ってからの殿下はただ真っ直ぐに私だけを望んでくれた。それの何処が可哀想なのでしょう?」
「そ、それは…」
「まして祖国の脅威を取り除いていただいたわけですから、それが事実だとしても私としては感謝しかございませんわ」
きっぱりと言い切る私に「そんな」と呟くミンディ。
彼女の愕然とした表情から、彼女の策は失敗に終わったのだとわからせることができたようだと一つ息を吐いた。
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