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この国には危機感が足りないようです
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「マリー様が悲鳴を上げられたのは、ある意味では殿下のせいですわ」
「なに?」
「殿下がいきなり私に求婚したせいで、今オークリッド国では様々な邪推がされているらしいのです」
崩れ落ちたジスを見て一先ず今日はこれで勘弁してやろうと息を吐いた私は、マリー様から聞いた事の発端を2人に聞かせることにした。
「邪推?」
だが私の切り出しに殿下は心当たりがないと首を傾げる。
ジスはどうかと見てみれば、彼も訝し気な顔で私を見上げていた。
いや、そんな捨てられた犬のような顔で見上げてないで、そろそろ立ってくれないかしら?
いつまでもそんな体勢でいられたら踏みつけたくなってしまうじゃないの。
「…なんでもその内容は『ジェラルド殿下は間者であった女性に粉をかけられ懇ろな関係となり彼女と手を結んだが、その後アンネローゼ様に一目惚れしたために彼女と手を切って証拠隠滅のために彼女を捕らえさせたのではないか』というものらしいですよ」
「なっ!?」
「ぶふぅおっ!!」
私がマリー様から聞いた話をそのまま(自分でもよく一字一句違わずに覚えられたものだと感心する)に伝えると、殿下はガタリと音を立ててソファから腰を浮かし、ジスは私たちから目を逸らして盛大に吹き出していた。
笑えるほど回復したのは結構だが、笑っている場合ではない。
「なん、ば、おま、まさか…っ!?」
殿下は何事か言おうとしているが上手く言葉にできないのかするのを躊躇ったのか、視線が私とマリー様を行ったり来たりしている。
私が市井に紛れて暮らしていた経験があると知っている殿下は、恐らく私がその意味を正しく理解していることには気がついているだろう。
しかしマリー様が理解しているとは思っていないはずだ。
つまり彼の視線が意味するところは。
「はい、マリー様にはそれがどういう意味を指すかはご説明しました」
その結果があの悲鳴であるとは言わずとも伝わるだろう。
思った通り殿下は額に手を当てて目を覆い、天を仰いだ。
一方のジスはマリー様を凝視している。
そしてその視線をゆっくりと私に向けた。
彼の目は「お前はこの純粋培養のお嬢様にそれを教えたのか?」と問うようなもので、信じられないと言わんばかりだった。
「だって今教えておかなければ、マリー様はこの先ずっと自分が放った言葉の意味を知らないままなんですよ?そんなの、マリー様が可哀想じゃない」
彼の声には出されなかった言葉に答えるように私は肩を竦める。
「自分が誰に何を言わされたのか、そのせいでこの国がどうなる可能性があったのか、自分がどうなる可能性があったのか、知らなければ今後の自衛もできませんのよ?」
そんなこともわからないのかと言外に言えば、それにハッとした顔をしたのはジスだけではなく、
「……自衛」
「そうか、もう俺が守るわけにはいかないのか」
まさかのマリー様本人も殿下も私が何故敢えて伝えたのかの意味を理解していなかった。
大国故だろうか、この国には危機感が足りな過ぎる。
私はため息を堪えて危機意識の薄いこの国の王侯貴族に講釈を垂れることにした。
「マリー様、結局貴女は誰にその言葉を吹き込まれたのでしょう?」
「え、ええ、メアリー様、メアリアナ・モンドレー侯爵令嬢からですわ」
私の言葉が彼女の認識を改めさせたのだろう、今度は隠すことなくその名を教えてくれる。
「そのモンドレー侯爵令嬢とはどういった方なのかしら?」
「そうですね、お父様が財務大臣を担ってらっしゃって、その手腕でご自分の領地を豊かにしてらっしゃる素晴らしい侯爵家の長女で、歳は私の2つ下の17歳で、とても活発な方ですわ」
「恐らくマルグリットが私の婚約者でなければ彼女が私の婚約者になっていただろう。過去にそういう話もあった」
私の問いかけに答えたマリー様の話に殿下が補足をする。
その口ぶりから、いずれかの生ではそうなったことがあったのだと察せられた。
そしてそう告げた殿下の顔を見る限り、歓迎できる相手ではなかったようだ。
もしかしてそれを拒否したくてマリー様との婚約を続けていたのだろうか。
「良くも悪くも貴族の子女らしい少女だよ」
だがそれを責める気にもなれないほど殿下の漏らしたため息は深かった。
「そうですか」
私は視線をマリー様に戻して再度問う。
「マリー様から見て、その方はどういう方です?」
「そうですね、殿下の仰る通り活発で、頻繁にお茶会を開かれるほどお話し好きで」
マリー様は唇に人差し指を当てながら彼女のことを思い出そうとするかのように斜め上を見上げる。
その仕草は彼女の癖なのだろう。
何度見ても可愛いから、話の内容がもう少し平和なものである時に愛でようと改めて思った。
「そういえば彼女には何度も『マリー様が殿下の婚約者の座を降りられても私がおりますから、どうぞ安心してその愛を貫いてくださいませ』と言われましたわ」
「はい黒!」
「え?」
真面目な顔をしながらもそんなことを考えていた私は、しかし彼女の言葉で早々に事の真相に辿り着く。
今回の事件(というほど大袈裟にするつもりはないが)の顛末は、簡単に言うとこういうことだ。
「今のお話しでわかりました。モンドレー侯爵令嬢は先ほどの噂話を使って私とマリー様を同時に陥れようとしたようです」
3人を見回しながらそれを告げた私への反応は三者三様だった。
「え?」
「え…」
「彼女ならやりかねんな…」
マリー様はまだよくわかっていないという顔で、ジスは絶句した様子で、殿下は額に手を当てて天を仰ぐ。
ジスの反応だけはわかったのかわかってないのか判別がつかなかったので、明らかにわかっていないだろうマリー様へ向けて私はゆっくりと真相を解き明かした。
「なに?」
「殿下がいきなり私に求婚したせいで、今オークリッド国では様々な邪推がされているらしいのです」
崩れ落ちたジスを見て一先ず今日はこれで勘弁してやろうと息を吐いた私は、マリー様から聞いた事の発端を2人に聞かせることにした。
「邪推?」
だが私の切り出しに殿下は心当たりがないと首を傾げる。
ジスはどうかと見てみれば、彼も訝し気な顔で私を見上げていた。
いや、そんな捨てられた犬のような顔で見上げてないで、そろそろ立ってくれないかしら?
いつまでもそんな体勢でいられたら踏みつけたくなってしまうじゃないの。
「…なんでもその内容は『ジェラルド殿下は間者であった女性に粉をかけられ懇ろな関係となり彼女と手を結んだが、その後アンネローゼ様に一目惚れしたために彼女と手を切って証拠隠滅のために彼女を捕らえさせたのではないか』というものらしいですよ」
「なっ!?」
「ぶふぅおっ!!」
私がマリー様から聞いた話をそのまま(自分でもよく一字一句違わずに覚えられたものだと感心する)に伝えると、殿下はガタリと音を立ててソファから腰を浮かし、ジスは私たちから目を逸らして盛大に吹き出していた。
笑えるほど回復したのは結構だが、笑っている場合ではない。
「なん、ば、おま、まさか…っ!?」
殿下は何事か言おうとしているが上手く言葉にできないのかするのを躊躇ったのか、視線が私とマリー様を行ったり来たりしている。
私が市井に紛れて暮らしていた経験があると知っている殿下は、恐らく私がその意味を正しく理解していることには気がついているだろう。
しかしマリー様が理解しているとは思っていないはずだ。
つまり彼の視線が意味するところは。
「はい、マリー様にはそれがどういう意味を指すかはご説明しました」
その結果があの悲鳴であるとは言わずとも伝わるだろう。
思った通り殿下は額に手を当てて目を覆い、天を仰いだ。
一方のジスはマリー様を凝視している。
そしてその視線をゆっくりと私に向けた。
彼の目は「お前はこの純粋培養のお嬢様にそれを教えたのか?」と問うようなもので、信じられないと言わんばかりだった。
「だって今教えておかなければ、マリー様はこの先ずっと自分が放った言葉の意味を知らないままなんですよ?そんなの、マリー様が可哀想じゃない」
彼の声には出されなかった言葉に答えるように私は肩を竦める。
「自分が誰に何を言わされたのか、そのせいでこの国がどうなる可能性があったのか、自分がどうなる可能性があったのか、知らなければ今後の自衛もできませんのよ?」
そんなこともわからないのかと言外に言えば、それにハッとした顔をしたのはジスだけではなく、
「……自衛」
「そうか、もう俺が守るわけにはいかないのか」
まさかのマリー様本人も殿下も私が何故敢えて伝えたのかの意味を理解していなかった。
大国故だろうか、この国には危機感が足りな過ぎる。
私はため息を堪えて危機意識の薄いこの国の王侯貴族に講釈を垂れることにした。
「マリー様、結局貴女は誰にその言葉を吹き込まれたのでしょう?」
「え、ええ、メアリー様、メアリアナ・モンドレー侯爵令嬢からですわ」
私の言葉が彼女の認識を改めさせたのだろう、今度は隠すことなくその名を教えてくれる。
「そのモンドレー侯爵令嬢とはどういった方なのかしら?」
「そうですね、お父様が財務大臣を担ってらっしゃって、その手腕でご自分の領地を豊かにしてらっしゃる素晴らしい侯爵家の長女で、歳は私の2つ下の17歳で、とても活発な方ですわ」
「恐らくマルグリットが私の婚約者でなければ彼女が私の婚約者になっていただろう。過去にそういう話もあった」
私の問いかけに答えたマリー様の話に殿下が補足をする。
その口ぶりから、いずれかの生ではそうなったことがあったのだと察せられた。
そしてそう告げた殿下の顔を見る限り、歓迎できる相手ではなかったようだ。
もしかしてそれを拒否したくてマリー様との婚約を続けていたのだろうか。
「良くも悪くも貴族の子女らしい少女だよ」
だがそれを責める気にもなれないほど殿下の漏らしたため息は深かった。
「そうですか」
私は視線をマリー様に戻して再度問う。
「マリー様から見て、その方はどういう方です?」
「そうですね、殿下の仰る通り活発で、頻繁にお茶会を開かれるほどお話し好きで」
マリー様は唇に人差し指を当てながら彼女のことを思い出そうとするかのように斜め上を見上げる。
その仕草は彼女の癖なのだろう。
何度見ても可愛いから、話の内容がもう少し平和なものである時に愛でようと改めて思った。
「そういえば彼女には何度も『マリー様が殿下の婚約者の座を降りられても私がおりますから、どうぞ安心してその愛を貫いてくださいませ』と言われましたわ」
「はい黒!」
「え?」
真面目な顔をしながらもそんなことを考えていた私は、しかし彼女の言葉で早々に事の真相に辿り着く。
今回の事件(というほど大袈裟にするつもりはないが)の顛末は、簡単に言うとこういうことだ。
「今のお話しでわかりました。モンドレー侯爵令嬢は先ほどの噂話を使って私とマリー様を同時に陥れようとしたようです」
3人を見回しながらそれを告げた私への反応は三者三様だった。
「え?」
「え…」
「彼女ならやりかねんな…」
マリー様はまだよくわかっていないという顔で、ジスは絶句した様子で、殿下は額に手を当てて天を仰ぐ。
ジスの反応だけはわかったのかわかってないのか判別がつかなかったので、明らかにわかっていないだろうマリー様へ向けて私はゆっくりと真相を解き明かした。
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