婚約破棄から始まる4度の人生、今世は隣国の王太子妃!?

緋水晶

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私のお友達に変なことを吹き込まないでくれませんか

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「そういえばローゼ様、お聞きになりまして?」
「…なにをかしら?」
マリー様との出会いに思いを馳せていた私は彼女の言葉に意識を戻す。
彼女を見ればいつもは輝き光る金色の髪に縁取られ、気品溢れる穏やかな笑みを刷いているその美しい顔が強張っていた。
「今この国に流れている噂についてです」
「噂?」
「はい」
鸚鵡返しに問い返すと彼女は神妙な顔で頷いて見せる。
しかし私には彼女の言う『噂』らしきものについて何の心当たりもなかった。
というかこの国で私が主に関わっている人間などジェラルド殿下と侍女3人の他は目の前のマリー様だけなのだから、世間に流れる噂話など届くはずもない。
「私はまだこの国に来たばかりですから外のことを教えてくださるのは殿下か侍女かマリー様くらいですよ?」
心を許せる人が少ないという意味では淋しい人数かもしれないが今の私には十分に思えるし、まだ先は長いのだからゆっくり人間関係を構築していけばいい。
そう思いつつ苦笑しながらマリー様に告げれば、彼女はほっとしたような、けれども不安げな瞳で私の顔を見た。
「マリー様?」
その様子が気になって名を呼んだ途端に彼女の眉は力を込めたように歪み、同時に大きな瞳が揺れた。
サファイアよりもアクアマリンに近い透き通るような淡い青の瞳は、それでも力強いものだった。
「……あくまで噂でしかないのです。そこはご承知おきくださいませ」
「もちろん」
マリー様は僅かに肩を震わせた後、息を一つ吐いて再び口を開いた。
「ジェラルド殿下がローゼ様に結婚を申し込まれた時のことなのですが」
だがそこまで聞いた時点で私は逃げ出したくなっていた。
確かに侍女たちにそのことを話したし、報告だけとはいえマリー様のおうちにもそのことは伝えている。
けれどまさかそれが国全体の噂になるまでに話が広がっていたなどと思ってもみなかった。
私にとっては思い出であっても決して美しいものだけとは言えなかったし、まだ色々と複雑な心境なのに。
咄嗟に取り繕えなくて崩れた表情を両手で頬を抑えることで隠す。
「殿下がガルディアナ国の間者を告発されましたでしょう?」
「…へ?」
しかし続くマリー様の言葉に私はその体勢のまま首を傾げた。
あの場には私と殿下しかいなかったはずですが?
「結果ローゼ様の祖国であるマリシティ国はガルディアナからの侵攻を未然に防ぐことができました。ですが今、そこに疑問の声が上がっているらしいのです」
と思ったが、そこでようやく合点がいった。
彼女が言ったのはつい最近の出来事の話ではなく、繰り返しの開始地点であるあの婚約破棄後の求婚の話だったのだ。
ああ、びっくりした。
私は安心して頬に当てていた手を下ろしたが、今度は話の内容自体に首を傾げた。
「疑問、ですか」
「はい」
マリー様はきょとんとした顔であろう私に真剣過ぎる目を向けたまま続きを語る。
「殿下がマリシティ国を訪れたのはあの時が初めてでした。なのに殿下はマリシティに入り込んだ他国の間者を見抜き、そして会ったこともないはずのローゼ様に突然求婚なさいました。それは何故なのかと」
「ああー…」
そうして聞いてみれば、なるほど普通はおかしいと思うだろうと私にも思える話だった。
繰り返しの記憶全てを持っていた殿下は未来のことを知っていたのだからカミラがガルディアナの間者であったと知っているのは調べてさえいれば当たり前だし、私のことは何度も見ていたし探し求めていたそうだから殿下の感覚としては初めましてではない。
同じく繰り返しを経験していた私ですら求婚の理由がわからなかったのだから、他の人に理解できないのは尤もな道理だ。
「そこから国中で様々な議論がなされ、数多の推論が生まれました」
なるほどと納得していると、マリー様はやはり深刻そうなままため息混じりになっている。
だが私は思ってしまった。
いや、オークリッド人はみんな暇なのか?と。
国中て、他に何か話題はないのか。
……ああでも、殿下はこの国の王位継承候補筆頭だもんなぁ、自分たちの未来の王のことは気になって当然か。
私はマリー様の言葉にうっかり突っ込みかけてしまったが、理由に思い当たり何とか堪えた。
「そして出た結論が『ジェラルド殿下は間者であった女性に粉をかけられ懇ろな関係となり彼女と手を結んだが、その後アンネローゼ様に一目惚れしたために彼女と手を切って証拠隠滅のために彼女を捕らえさせたのではないか』というものでした」
「ふっ」
けれどその言葉には紅茶を吹くところだった。
そういえば前にもこんな経験をしたような気がする。
これからは誰かが真面目な話をしている時に紅茶を飲むのはやめようと思った。
しかしそんなことよりも問題なのは、マリー様に「粉をかける」だの「懇ろ」だのと言った人間がいることだ。
私だって市井に降りなければそんな言葉は知らなかったはず。
公爵家の令嬢であるマリー様がその意味を知るはずもない。
どこの誰かは知らないが、純粋な公爵家の令嬢に変な言葉を教えないでいただきたいものだ。
というより、それは本当に国民がしている噂話なのだろうか?
いくらなんでも不敬が過ぎると思うのだが。
「え、ええっと、マリー様」
「はい」
私は努めてにっこり笑いながら言ったつもりだったが、自分では抑えられない頬の筋肉が時折ひくひくと動いているのを感じる。
そのせいで私が無理に笑顔を浮かべていると思ってしまったのだろう、マリー様の眉が悲し気に寄せられた。
ああ、違うのに。
私は悲しんでいるのではなくて。
「誰が貴女にそんな話を?」
マリー様にそんな話を吹き込んだ人間に対して、怒っているだけなのだ。
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