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想いを繋げる
しおりを挟むその時になって初めて、月花は咲夜の眼を見たような気がした。
あの頃、姉に向けられていたはずの熱を含んだ青い硝子玉の瞳が、こちらをしっかりと捉えていた。
「月花、君を愛しているんだ。」
ずっとずっと好きだった咲夜が真剣な、少し震える声で自分の名前を呼び、愛を伝えてくれている。
それはずっと子どもの頃から、月花が欲しかったものだった。
歓びに心が震えるのを感じた。
けれど月花は小さな子どもがイヤイヤをするように首を振った。透明な涙の雫がパッと闇夜に散る。
彼が自分に向けてくれる感情もずっと聞きたかった言葉も、まだ膝まで冷たい湖に浸かっていることを忘れてしまうほど、泣きたくなるほどに嬉しい。
それと同時に、心底嬉しいと思ってしまう自分の心を、姉を忘れて喜んでしまうその心に強い罪悪感を持った。
こんな幸せを感じていいはずがない。
お姉様はもういないのに。
結局、自分は身代わりにもなれなかった。
姉は死んでしまった。その事実が月花の心に大きな新しい穴を開ける。ずっと心の隅では分かっていたのに、信じたくなくて逃げていたところを連れ戻されて現実を突きつけられ、月花はもうどうしていいのか分からず、泣きながら咲夜に問いかけた。
「…お、お姉さまの、ことが好きなのでしょう?」
「…好きだったよ。」
「い、今も、好きでいてくれるのでしょう?」
「…僕が、陽日さんの事を好きでいる方が良いのかい?」
月花は頷こうとしたが、出来なかった。どうしても頷けない。心と頭がバラバラに離れてしまったような感覚に陥った。
咲夜の目が少女を悲しげに見つめていた。
「…僕は生きている限り、彼女に申し訳ないと思い続けるだろう。けどそれは、今も彼女を好きだからじゃない。」
「……」
そんな事言わないで。
声にならない声で月花は呟いた。
咲夜は両手の平で月花の冷たい頬を包んだ。少女の眼に後から後から溢れてこぼれ落ちる涙が、その手の甲を滑って落ちてゆく。
「…月花、僕が君を支えるよ。君が僕にそうしてくれたように。
君が僕に教えてくれたんだよ。陽日さんを失って、恋慕と…それ以上に後悔と自己嫌悪に押しつぶされそうになっていた僕に、…生きてもいいと。」
「……」
「君と、彼女の話をたくさんして、何度も何度も思い出して、陽日さんをずっと忘れずにいるなら。また誰かを好きになる事も出来るんだと、なってもいいんだと、君が教えてくれたんだ。
君は一人じゃない。僕がいるよ。」
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