身代わりの月【完結】

須木 水夏

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告白

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「…身代わりなる為に、生きてきました」


 月花はポツリと言葉を零した。咲夜はゆっくりと顔を上げて茫然とした表情の少女を見る。

 闇夜に月花の漆黒の長い髪が融け、風に遊ばれてさらさらとなびいた。



「竜神の話は、母から聞いて、お姉様は、お嫁に行ったのだと…だ、だから、逢えなくなったのだと」

 幼い子どもを傷つけないようにした親の作り話だった。なぜ信じていたのだろう。今なら分かるのに。
 否、信じたくなかったのだ。竜神に攫われたと思いたかった。自分が身代わりになれば、望めばまだ帰って来てくれる場所に姉はいるのだと、月花は思いたかった。


 しゃっくりを上げながら、それでも私は懸命に言葉を紡いだ。咲夜は黙って聞いてくれている。



「わ、私がっ、おね、さまと、同い年になって、かわりっに花嫁に、なれば、…ねえさまは、帰って、きて…さ、咲夜さんがっ」
「……僕が?」
「ま、また、あの頃みたっ、に、笑って、くれると…」


 全てを伝える前に、咲夜は強く私を抱き締めた。そしてごめんねと小さな掠れた声で言った。


「月花が僕の事を好いてくれることは、ずっと前から知っていたよ。それなのに、陽日さんの姿を君にずっと重ねてずっと君を苦しめていた。こんなに思い詰めていたなんて、気が付かなくて本当にごめん。酷いことをした。」


けどね、と彼は続けた。


「君にあの人を重ねて見ていたのは、…罪悪感からなんだ。僕が陽日さんを早い内に諦めていれば、君は姉を失わずに済んだのにと君を見る度に、いつも考えていた。

 …今日、君の行方が分からないって連絡が来て、もしかしてと思ってここに来て…湖に浸かった君の姿を見た時、僕は心臓が止まるかと思った。」

 咲夜は泣いている私を覗き込んだ。彼も白い頬を濡らして泣いていた。青い目が、切なげに月花の瞳を覗き込む。

「君を失ったら、そしたら僕は今度こそどうかなってしまいそうだ。君だけは失いたくない。…愛してるんだ。」

 彼の言葉に私は大きく目を見開いた。
 そんなはずはない、そんなことはあってはならないのに。

 




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