身代わりの月【完結】

須木 水夏

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太陽

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 神宮 咲夜ジングウ サキヤは、大きな病院の跡取り息子で、その年齢の割に大人びていて落ち着いた少年だった。

 対する姉の黒田 陽日クロダ ハルヒは小さな診療所の娘で、親友であった祖父同士の約束により、彼らの婚約は最初から決められていた。

 と決まっていた訳では無い。陽日と月花、どちらかが咲夜の許嫁となるようにと運命られていた。
 
 彼に選ばれたのは、姉だった。

 2人は奇しくも同い年だったし、月花はまだ幼すぎた。





『お互いの孫が男女であれば、婚姻によって家と家を結ばせよう』




 それは、産まれる前から決められていた関係。



 それでも確かに、2人はお互いに好き合っていたのを、月花ツキカは知っていた。





 咲夜は、月花にも優しかった。

 姉にくっついて逢いに行くと、姉に捧げるのと同じように色とりどりのお花や、美しい紙やガラス細工のペンなどを贈ってくれた。
 姉にはブローチやネックレス、月花にはリボンやぬいぐるみを贈ってくれた。

 物が欲しいわけではなかったけれど、好きな人から贈り物を貰えれば、嬉しくないはずはない。プレゼントを貰う度、月花はそれを自分の部屋の中で何度も取り出して、うっとりと少年の姿を思い浮かべた。



 けれど、彼は少女達に会う時、贈り物を渡す時、必ず姉の顔だけを見て、まるで大事な宝物を見つめるように頬を染めて、嬉しそうにニコニコと笑っていた。

 月花にも時折目を向けてくれていたけれど、姉に向けるような熱はそこには含まれていなかった。




 ずるい。と、月花は最初は思った。
 姉は先に生まれただけで咲夜の婚約者に選ばれた。

 思ったことを隠しておける性質ではなかったので、ずるい、と泣きながら姉に告げると、優しい姉は困った顔をして月花の頭を撫でながらごめんね、でもね、私も好きなのよ、と言った。私は耳を塞いでその声を聞かないようにした。
 お日様の化身のような、薄い色素の髪と眼の美しいお姉さま。長い睫毛を瞬かせて本当に申し訳なさそうな顔をして。   
 その月花を決して傷つけない優しい声を、少女はまたずるいと思った。

 妹はまた、姉のことも大好きだったのだ。




 だから、月花は泣きながらもその恋を諦めた。彼らの幸せを心より願っていた。






   なのに。

 どうしてこうなってしまったのだろう。




 
 ある月夜に、姉が居なくなった。

 竜神に攫われてしまったのだ。


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