【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

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護ることと護られること【リエナ・ランドーソン】

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「リエナ、貴女はお姉さんなんだから、アシェルをきちんと護ってね。貴女はなのだから」

「はい!」


 お母様にそう元気に返事をした後、一人きりになった部屋の中で私は声を殺して泣きそうになるのを我慢した。

 知っている?泣くのを我慢すると喉の奥がとっても痛くなるの。
 あの時、私は七歳だった。でも絶対に泣かなかったわ。



 生まれた時から一緒にいた、大切な大切な私の双子。片割れ。大好きなアシェル。勿論、護るわよ。言われなくたって。


 アシェルは、男の子なのに私よりもずっと気弱で大人しくて、傷つけられることをいつもとても恐れていたわ。その性質を危惧されて、女である私が男爵家を継ぐことになったのよ。王女だった曾祖母様はえらく勝気な性格で、私は完全に彼女譲りの性質をしていたから、それは全然問題なかったの。
 私の一番の心配は、アシェルのこと。 
 私達は貴族。男爵家とは言え王女も降嫁したこともある名家だったから、何れは魑魅魍魎の中で生きていくことになる。
 そんな弱気では駄目なのよ、と何度か叱咤してみたけれど困ったように眉毛を下げるだけだった。でも、そういう所も彼の優しさや繊細な心を現しているから、外見も相まって本当に天使のようねと素直に思ったわ。


 アシェルは幼い頃、鴉を飼っていたの。それを隣に住んでいたイザベラが飼っていた鷹で傷つけて殺してしまったのよ。真っ青な顔をして動けなくなってしまったアシェルの代わりに、なんてことしたのって怒鳴りつけてやったら、「だって、アシェル様が私のことを見てくれないから」ですって。あまりの悍ましさにぞっとしたわ。その頃からアシェルは段々笑わなくなって、怖がることも減ったけれど喜ぶ顔も見せてくれなくなった。

 私もアシェルも、外見は曾祖母様に似ていて、大きくなればお母様のようにとても美しくなると、ずっと昔から言われていたわ。見た目が良いと言うことは、良い事も沢山あるけれど悪いこともあるの。色んな人を惹き寄せてしまうのよね。男も女も、有象無象の人々を。
 お母様はお父様にずっと子どもの頃から護ってもらっていたそうだけど、私達は自分自身で自分を護らなければならなかったの。勿論、騎士はいるわよ。でも学園の中まではついてこれないでしょう?
 それからは、結構大変だったわ。アシェルが女の子達に纏いつかれるのを蹴散らすのもそうだけど、も男の子達に纏いつかれていたんだもの。プレゼントを、要らないってその都度断るのに何度も渡されて。しまいには「受け取ってくれたから婚約してくれるよね?」なんて気持ちの悪いことをいう人も出てきた。頭おかしいんじゃないかしら。はっきりと断ってやったわよ、二度と眼前に現れるなってお伝えして。


 アシェルには「プレゼント受け取り禁止。あと、好きな子できても相手が許容するまではプレゼント禁止」って教えといてあげたわ。知らない相手からの重たいプレゼントより怖いものはないから。


 そんな私も十歳の時に婚約者が決まったの。キュマリー侯爵家の次男、ナウロ様だった。

 正直、その時点で私は自分が美しい事は知っていたし、男性が自分を見た途端にだらしなく鼻の下を伸ばすのを何度も見ていたから、ああきっと婚約者もあんな感じになるのかしらと最初から少し憂鬱だったの。
 けれど。



「初めまして。ナウロ・キュマリーと申します。以後よろしくね」



 初めて会った時に、ナウロ様は私を見て小さく微笑んだだけだったわ。不思議な人だった。何時も微笑んでいるように細められている目の色は、淡い金色。小麦色の髪は長く、背中で一つに束ねていて柔らかそうだった。動作も洗練されているけれど、とてもゆっくりで品がある。同じ侯爵家でも違うのね、と隣に住む少女の事を私は思い出してそっと息をついた。

 私のナウロに対する最初の印象は、「大人しそうな人」というものだったわ。だけど、何度も会う度にその印象はどんどん変化していったけれど。

 ナウロはその落ち着いた雰囲気の外見に反し、よく笑う人だった。
 幼き日の、リエナの武勇伝(蜘蛛を見て震えて腰を抜かしてしまったアシェルを救い出した話や、声をかけ触ろうとしてきた男性の頭が鬘だと言うことを見抜いて大声で言ってやった話など色々)を聞かせた時も声を立てて笑っていた。
 彼は聞き上手であり、私の話を楽しそうに、そして興味深そうにずっと聞いてくれる人だったの。
 ある時いつものように向かい合い、お茶を飲みながら話をしていた時。ふと、笑を零していたナウロがじっとこちらを見つめていたの。気がついた私が首を傾げたら。




「リエナ様は、他者に対しての愛情が深いんですね」

「そうかしら?まあでも、家族は愛しているわ」

「…頼れていますか?」

「…え?」

「貴女は美しくて賢い。時期男爵としての度量も大きいと思う。けれど貴女が教えてくれるお話は、貴女が誰かを救ったり諌めたりしてばかりだから。」

「…」

「自分の心の内を明かせる相手は、いますか?」

「…心の内」



 彼の言葉に動揺したわ。小さな頃、アシェルばかりが護ってもらえる事を羨ましく思いながら、でも私は『後継』だから。
 心の内を明かす?…どうやって?


「…そんな必要、ないわ。弱みを見せても良いことなんて無いでしょう?貴方も高位貴族であるなら分かっているはずよ」

「弱み、かあ。」


 ナウロはふわっと笑うと。
「私は貴女に頼られたいですけどね」
 と言った。


「頼られたい?」

「ええ。結婚をするのですから、慰めたり元気づけたりする役目は私がしたいのです。」

「慰める?」

「あとは護りたいですね」

「…護る?私を?」

「はい。夫婦とはそういうものだと認識しているので。…おかしな事を言っていますか?」


 私が黙ってしまったので、困ったようにな顔でナウロは笑った。でも声が出せなかったの。一言でも喋ったら泣き出してしまいそうだったから。
 これは政略結婚よ。愛情を示されるなんて思いもしなかったから、きっと感情が揺れてしまったのね。


 でも、私は泣かなかったわ。ナウロの為に泣くことがあるとすれば、その時は、いつかちゃんと心から結ばれる日だと決めているのよ。こう見えてロマンティックでしょう?



 その後、アシェルは飼っていた鴉の色に似た女の子に一目惚れするし、学園ではイザベラが変な会を発足して弟に近づくのを諦めないし、色々あったけどね。
 ま、私は元気よ。これからも色々あるだろうけど、楽しく過ごすわ。








【終わり】







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感想 4

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みんなの感想(4件)

ぉねいちゃん

楽しく拝見させていただきました(^ ^)
私的に前半の所業でどっちの男も無理だと思いましたが…

アリエットお幸せに〜〜

須木 水夏
2024.11.23 須木 水夏

読んでくださってありがとうございました!( . .)"🍀.*

私もです〜笑
歪んだ彼を受け入れてくれたアリエットの広い心に感謝しかありません…!🙏

解除
まほ
2024.11.15 まほ

クズと別れたと思ったら次の男がコミュ障クズで横転

須木 水夏
2024.11.15 須木 水夏

読んでくださってありがとうございます!
確かに真っ直ぐ自分を表せないコミュ障ですね笑
まっすぐ爽やかな男の人って書くの難しいなっていつも思ってます(どこかしら歪む)。
いつか描いてみたいですねえ、真っ直ぐヒーロー…!✨️

解除
月華
2024.09.20 月華

ディオルがなぜ「アリエットは僕が好き」と思い込んでいたのかと併せて、その後のことを知りたい。

須木 水夏
2024.09.21 須木 水夏

読んでくださってありがとうございます!




ディオルは、アリエットと子どもの頃に出会った頃より婚約者として過ごしてきました。
 婚約者になった彼らは、月に1回の顔合わせやお茶会などで過ごし、アリエット的には特に心惹かれる瞬間や甘やかな感情があった訳では無いので、ディオルに対し兄弟だなあという感覚で接していたのですが、ディオルは自分の方から何かアクションを起こさなくても、最終的には面倒を見てくれるアリエット(アリエットの方が色々と出来が良い)は、なんだかんだ言いながら自分のことが好きだから色々してくれるんだ、という勘違いをしておりました。(単純)

 婚約解消の話も、他に好きな人が出来たというのは本当でしたが、彼にしてみたら気を引く為の小道具、そして少し優越感のあったただの冗談であり、家同士の決まり事なので、あの場で話したところで真逆本当に解消されるなどとは思っておらず。

 結果的には解消となり、その後は双子に守られたアリエットに全く近づけなくなりました。今はディオルの父親にチクチク言われながら、別の婚約者を探して奔走している最中です。
 

解除

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