【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

文字の大きさ
上 下
13 / 23

貴女こそどなた?

しおりを挟む







「貴女、アシェル様の何なんですか?」

「何と、問われましても…?」





 移動教室の途中、その美少女に話しかけられた時に最初、アリエットはなんの事だろうと首を傾げてしまった。

 アシェル・ランドーソンにとっての何か、なんて聞かれたことが今まで一度もなかったからだ。それに、なんだと聞かれたところで、異性の友達とも言えない関係としか言いようがない。
 そもそも。



「…どなたでしょうか?」

「…失礼いたしましたわ。私、ナディア・テストレンと申します」


(あ、そこは謝るのね。)



 テストレンと言えば、東の地方に領地を持つ男爵のお名前じゃなかっただろうか。アリエットの家の領地とは王都を挟んで反対側である。なので面識は全くない。

 アリエットは伯爵位の娘なので、高位貴族に対して先に話しかけてくる行為は褒められたものでは無いけれど、学生のうちはまだ許されているという事もある。(学園は交流の場として考えられているし)
 それでも、常識的な考え方をしている貴族の子供達は、今後のことを考えて下手な事はしないのだけれど、つい最近似たようなことがあったな、と考えてそれがリエナだった事を思い出したアリエットは思わず遠い目をしてしまった。




「それで、アシェル様とはどう言ったご関係で?」

「…何故そんなことをお聞きになりたいのかしら?」

「聞いてしまったのです!貴女がアシェル様より夜会のパートナーのお誘いを受けているところを!」



(……?
 …あー!
 なんか前から見た事ある気がしていたけれど。あの時、彼の後ろに見えていたはこの子だわ。)




 そうなのだ。意識的にアシェルへと視線を向けるようになって以降、ちょいちょい視界に入ってきていたこの少女、以前から彼の周辺にいたことにその時になってアリエットは気がついた。
 彼女の視界には入ってきていたが、興味がなかったので認識していなかっただけだったらしい。



「絶対におかしいと思うのです!貴女みたいな、な方がアシェル様から声をかけられるなんて!」

「はあ…」

(普通で悪かったわねえ…)


「どんな手を使ったんですか?」

「手?」



 見るからに華奢で可憐な金髪青い目の美少女が目を潤ませて、アリエットに物申している様子は他にも移動をしている生徒からも興味をひくもののようで。
 通り過ぎながら、皆ちらちらとこちらを見ている。アリエットの黒髪に黒目のエキゾチックな見た目は、この国ではそれでなくても少し浮くので辞めて欲しいのだけれど。





「わたくし、アシェル様へと嫁ぎたいのです」

(ええ、そんな事ここで言ってしまうの?というか、家同士で話をしているということ?)



 そう思った後に、それなら彼がアリエットにパートナーの誘いをかけてくるのはおかしな話で。貴族の婚約や結婚は契約事としての意味合いが大きい。嫁ぎたいです、はいそうですかで決まる事もあるだろうが、大体の場合はお互いの家柄や状況に応じて変わるものだ。

 テストレン男爵家がランドーソン男爵家に釣り合うような功績を持ち、裕福な貴族であれば良いのだが、並び立つ男爵位の家柄をアリエットは知らない。
 ランドーソン男爵家と釣り合うのは唯一位のものでは無いだろうか?
 恐らく、目の前の少女の拗らせた恋の片思いなのだろうとアリエットは予想した。




「だから、何らかの手を使ってあの方に近づく貴女に辞めて頂きたくて」


 私から特に近づいていないわよ?と思いながら。



「…ナディア様と仰ったかしら?それが私に何の関係があるのでしょう?」

「!ひ、酷い!関係あるかなんて…私はただ聞いているだけなのに…」


(酷いとは?)

「私に聞くのではなく、ランドーソン様に直接聞かれたら良いではありませんか?」

(どんな関係なのか私自身も把握していないのよ。贈物に関してもまだ何も聞けてないし)





 通常、美少女に距離を詰められれば男女関係なく少しくらいは動揺するものだろう。
 けれど、近くにメーベリナという更に貴族然としたオーラのある美形の友がいるアリエットにとっては、目の前で涙目になってこっちを訴えるように見つめる少女を白けた目で見返すくらいには、なんともない事だった。




「ア、アシェル様の傍には何時もリエナ様がいらっしゃって話しかけれないので…」


(あ、やっぱり一方通行なんだわ)

「…嫁ごうと思っている方の妹に話しかけられないというのは、どういうご状況なんです?」



(性格悪いかしら?でも、あちらに相手にされていないからと言ってこちらに絡んでくるのも違うということを今言っておかないと後からも面倒そうだし…)




 図星であったのか、カッとナディアの顔色が赤くなった。プルプルと細い身体を震わせている。




「!あ、貴女には関係ないでしょう?!」

「ええ、その通りです。ですので、直接ランドーソン様にお伺い下さい。」

「…貴女が彼に近づかなければ問題ないのよ!」

「私からは一切近づいておりませんけど」

「じゃあ何?彼から貴女に接触してるとでもいいたいの?」

「だから、それをご本人にお尋ねしたらよろしいでしょう?それとも、そうできない理由でもあるのですか?」

「…!!なによ!!」




 その瞬間、何を思ったのかナディアは此方に掴みかかろうとしてきた。






 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

処理中です...