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そういう事じゃないですが
しおりを挟む「…貴女それ
…え?どういう事?」
「分からないわ」
カフェで向かい合ってメーベリナに状況を報告してみたものの、彼女の第一声はそれだった。私が聞きたいんだけど、とアリエットは天井を仰ぎそうになるのをすんでのところで堪える。
目の前に並べたイチゴのショートケーキには目もくれず、メーベリナ真剣な顔でアリエットの向こう側…何があるんだろう?振り返ってみても壁しかない…を見ている。
「待ってね。整理するわよ?
アシェル・ランドーソンは元々貴女と直接的に関わる訳ではなく、妹のリエナ・ランドーソンの後ろに立って、彼女が横暴…とも取れる言動を貴女にとるのを黙って見ていたり、彼女のいない生徒会中には話しかけてこないのにずっと見つめてくる、訳を尋ねても無愛想で、或は無視をする、嘲笑を浮かべる、だったわよね?」
「そう」
「それで、貴女がマニール子息と婚約を破棄する話を耳にしたら急に夜会のパートナーになりたいと言ってきたと」
「うん」
「で、夜会に着けて欲しいとジュエリーを送ってきた?」
「ええ」
「どういうこと?」
「だから、私も知りたいんだってば!」
メーベリナは珍しくその可愛らしい顔を顰めて仕切りに顎に手をやり首を傾げている。アリエットはその様子に、自分と同じく困惑している目の前の少女に溜息を吐きながらも少しだけ安心していた。良かった、自分の感性がおかしい訳ではなかったと。
ところが。
「いえ、分かるのよ?貴女の婚約解消に合わせての夜会のパートナーのお誘い。彼は貴女に気があるのでしょうね」
「は?何故そうなるのよ?」
「いやそうでしょ?貴女に婚約者が居なくなったなら我慢しなくても良いと思って、と言ったんでしょう?」
「そのような事を言ってはいたけれど…そういうのじゃ…」
「そうなの、そこなのよ!!」
メーベリナは声を高らかに叫んだ。周囲の人々がなんだ?とこちらに目を向けるのを気にもとめずにしゃべり続ける。
「問題は、貴女がそれを好意だと思っていないという点よ!本来なら、イケてる男性より宝飾品を贈られる、しかも高価なものよ?嬉しいじゃない。けれど、それを貴女は怖いと思った!だってそうよね、好きでもない相手から贈られる高価なプレゼントより怖いものなんてないわ。いくら美男から貰ったって嬉しいわけが無い。
ああそうね、そういう事よね。彼は順番を間違えちゃってるんだわ。」
「じゅんばん…」
「貴女に好かれるという手順を飛ばしたのよ」
「す、好かれる?なんの為に」
「貴女が好きなのよ」
「…へ?」
今度はアリエットがメーベリナに「どういうこと?」と聞く番だったが、少女は「前に言ったじゃない」と微笑んだ。
「ランドーソン様はツンデレなのよ。家族以外は誰に対しても心を開かない主人公が、好きになってしまった女の子に対して不器用に誘いの文句をかけるの。『俺と夜会に参加してくれないか?』」
「そんな言われ方してな…」
「そしてそこから始まる『貴方もしかして私の事好きなの?え?でもそんな素振りあったような無かったような、あったような。』
そのあったようなの部分が圧倒的に足りなさすぎる状態でランドーソン様はアリエットに声をかけてしまったということね」
「……すごい妄想だわ、メーベリナ。」
「失礼ね。空想と言ってちょうだい。でも、もう夜会にご一緒することは決まっているのでしょう?ていうか、アリーってマニール子息と夜会に出たことあったかしら?」
「…言われてみればないわね。婚約した後にデビュタントで一度踊ったことはあったけれど」
「…今更思うけど、本当に婚約していたのっていうくらい貴方達って距離が遠かったわよね」
「仕方ないわ。お互いに興味がなかったんだもの」
「ふぅん。それで?ランドーソン様には興味を持てそうなの?」
「んん?私が?」
「そうよ。あ、でも貴女、ランドーソン様にはマニール子息よりは興味あるわよね。だって話題に上がってくるんだもの」
「だから…そういうのではなく…」
「そういうのでは無いところから始まるのが、恋なのよ」
(だめだこの子、演劇の観すぎだわ)
キラキラした目で恋について語り始めたメーベリナに若干呆れながらも、アリエットは教室で声を掛けてきた時のアシェルの姿を思い出していた。
いつもと少しだけ違うように見えた、真剣な瞳は澄んだ冬の空のように淡く綺麗で、その色に贈られたジュエリーに付いていたブルーダイヤモンドの色が重なる。恋人に自分の色を贈るのはよくある事だが、そうじゃない相手にそんな物を贈ってくるなんて、メーベリナの言葉では無いけれど怖いし非常識だ。
そこまで考えて、結局話しが出来ていない事を思い出してどうしようかなあと考えあぐねていた時。
「アシェル様とどういうご関係なのですか?」
(今度は何よ?)
この前見かけた金髪美少女に、移動教室の途中で話しかけられてアリエットはげんなりしたのだった。
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