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反りが合わない相手

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(はあ、疲れたわ)




 未だ戸惑うディオルを屋敷から追い出…帰ってもらった後、アリエットは自室に戻る廊下を歩きながら、心の中でチッと舌打ちをした。


(大方、ディオルの好きな相手というのは最近頻繁に絡んでいるランドーソンご令嬢かしらね。興味無いけど。)



 脳裏に人物の姿をおもいうかべる。
 但し、アリエットの頭の中に直ぐに浮かんだのはだった。
 アシェル・ランドーソン男爵子息。
 ディオルが心を寄せている相手は、彼の双子の妹のリエナ・ランドーソンだと思う。多分。





 このアシェルとリエナは、アリエットとディオルと同じ学園に通う同級生だ。クラスはアリエットと双子が一緒のAクラス。Aクラスは優秀な子ばかりが集まっている、所謂特待生クラスだ。ディオルはその隣のBクラスに所属している。どの様にして二人が出会ったのかは興味が無いので不明だが、アリエットはランドーソンのその二人にあまり良い気持ちを抱いていなかった。



 二人とも銀髪に澄んだ水色の目をしていて、スラリとした美しい天使のような外見の双子だが、中身は両方とも悪魔、だとアリエットは密かに思っている。





 まずアシェル・ランドーソン。
 その精巧な人形の様に美しい顔は、固まってるのかなんかのか、いついかなる時もにこりともしない。
 彼は、高位貴族であろうと下位貴族であろうと態度を変えず氷のような冷たい目でじっと見つめ相手を理詰めしている(ようにしか見えない)。

 アリエットと同じく生徒会に入っていて、所属している王子や公爵子息、侯爵子息にも遠慮のない物言いをするので、聞いているとヒヤヒヤするのだが、彼らは気心知れた仲だそうで慣れているとの事。


 とにかく誰に対しても、いつも無表情だ。

 しかしそんな彼は時折アリエットに嫌味の籠った笑みを浮かべたり、少女をじっと蔑んだ目で見てくることが多々あった。
 当初、意味が分からずにアリエットはただただ困惑していたが、段々と無性に腹立たしい気持ちになっていった。


 あまりにも理由が気になったので本人に聞いたことがある。生徒会の仕事をしている時だ。



『…何か?』

『…特に何もありませんが。』

『こちらを見てらっしゃいましたよね?』

『いいえ、特に見ておりません。自意識過剰ではないでしょうか。』

『…そうですか』


(…はあぁ?)



 アリエットは伯爵令嬢として躾られているので、もちろん表情も態度も柔らかいままで「そうですか」と、手元の書類を確認するように視線を逸らしながら、返事をした。
 が、心の中では悪態をついていた。


(勘違いじゃないから聞いてるんでしょうが~~~?
さっきからこっちをずっと見てるの気がついてるのよ~~~??

 何なの、何が言いたいの?私が確認してる収支書類に物申したいならさっさと言えばいいじゃない…!!)




 視線を外すとまた隣から、アシェルより痛い程の視線を感じる。本当に勘違いか…?とちらっと視線をそちらに向けると目が合う。すると、またニヤッと笑われた。



(見てるじゃないの…!!しかもその笑い方…感じ悪いったらありゃしない…っ!なんなのこの人!?)


 完全に頭に来たもう無視だ無視、と自分を宥めながらいつも仕事を進めていた。
 そんな二人を見てやれやれ、と王子やその他の生徒が首を振っていることに気が付かないまま。








 そしてもう一人、いけ好かない男の双子の妹のリエナ・ランドーソン。
 こっちもアリエットにとってはかなり問題だった。





『ねえ貴女、そんな煤けた髪の色初めて見たのだけどどこの生まれなの?』

『…はあ?』



 これが、リエナとの初めましての会話である。

 こちとら伯爵令嬢、男爵家よりも地位は上だぞ…と内心ピキったアリエットだったが、そこは淑女としての教育が勝った。悪態は一瞬ついてしまったが表情はにこやかなまま保てた、と思う。
 しかし、本当はこちらの方が上なのだから、無視してやれば良かったのだがアリエットの性格上言い返してしまった。




『…東の大国カザエルラでは、貴族でも特に珍しい色でもありませんのよ?わたくし、そちらに親族がおりますの。
 もしかして、カザエルラをご存知なくて?(ものを知らないの?勉強して出直してこい…!)』

『…へえ、そうなのね。知らなかったわ、ごめんなさぁい。…あら?よく見たら目の色も煤けてるわ、うふふ。』



 うふふ、と笑った顔があまりにも綺麗過ぎて女のアリエットでもドキッとしたが、けれど言われた内容とその後のどこか人を見下したような笑い方で。



(絶対性格悪いわね、この子)



何か知らんが腹立つので関わらんどこう、とそう思ったアリエットだったのだが。





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