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双子の魔女
やっと逢えた
しおりを挟む「あら。今度の王子様は金髪に青い目ですって。」
「王妃様の色ね。」
「…この人が最後なのかしら?」
「…そうだと良いわね。」
今日も小鳥が運んできた小さな切れ端には、国のニュースが載っている。お披露目された幼い王子は、既に国中の関心の的となっているようだった。
「…この人は、何を望むかしら?」
「どうせ地位や名誉や命乞いでしょう。権力者の心の内なんて知れているわ。」
「…クロったら、この六百年でだいぶひねくれちゃったわね。見た目は全然変わらないのに。」
「元からこのような性格です~。」
大きな樹の向こう側、目立たないように設えた粗末な木の板の下には、あの城に続く地下道が通っている。あの地下道が出来てからというもの、今か今かと少女たちは待ち構えているのに、時折偉そうな人がやってくる以外は、彼の言っていた、追い込まれ切羽詰まったように見える該当人物はやってこない。
「…このまま替えか来なかったら、私とシロは永遠に森の中ね。」
「私、それでも良い気がしてきたわ。」
「ええ、嘘でしょう?」
「だってここでは、誰からも叩かれないし蹴られない。何百年経ったって忘れてないわよ、あの痛み。
それに、大好きなクロと二人きりでずっと居られるんだもの。鳥さんが時々持ってきてくれる、新聞やリボンや綺麗な栞や、それだけでも幸せになれるのだもの。」
「シロ…。」
「あ、でも。パッフェと言うのは食べてみたいわ。この前新聞に広告が出ていたの。とっても甘くて冷たいらしいのよ。冷たい食べ物なのに美味しいんですって。不思議じゃない?」
「…食欲湧かないはずなのに食い気がすごい…。」
「クロ、違うわよ?お腹が空くのと食べたいのは別物だから。」
「はあ…。」
そんな日が、何だかんだこれからも続くのだと思っていた。
突然、その日はやってきた。
「…鳥さん達、逃げてゆくわ。」
ある日、空を見つめていたシローネがそう呟いた。クローディアは、その言葉にじっと空と、そして森の境目へと目を向ける。遠い所から、狼煙が上がっていた。
地下道の木の蓋が音もなく開き、そこから青年が這い出してきた。
金髪に、眩しそうに細められた目の色は、青。
窶れ、衰弱をしているのか肘を突っ張り、どうにかその穴から抜け出してフラフラと立ち上がった。喉元を押さえている仕草をみて、飢えている事が分かった。そして、その人物はそのまま此方側へとやって来る。一歩、一歩近づいてくる。
ざわり、と胸が騒いだ。
「来たわ。」
「来たわ。」
大樹の前を通り過ぎ、彼の身体が境界線を超えた瞬間。
ドォン、と大きな音が彼の背後から聞こえた。それは祝福の地鳴りのようにも聞こえたが、どうやら向こう側の世界で何かが爆発したらしい。
「まあ、物騒ね。」
「抜け出す時にあちら側に出ないようには出来るのかしら?」
「さあ?」
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