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双子の魔女
双子の六百年
しおりを挟む「…本当に喋れるようになったわ。」
ぽつり、とクローディアは呟いた。
「…見える。見えるわ。あれが、空?」
呆然としたようにシローネが言った。
男の言ったことは本当であった。彼が消えた日から、数時間後(もしかしたら、数日は経っていたのかも知れない)、少女達の傷はまるで最初から無かったかのように綺麗に癒えた。と言っても、鏡がある訳では無いので、お互いに顔や身体を確認し合って分かったことだ。
そして、彼が言ったように先天的な障害だったシローネの盲目は治り、後天的なクローディアの失語症も治った。
喋れるようになったクローディアは、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように喋り、美しい歌声で歌った。
目が見えるようになったシローネは全てが目新しく、暫くは触ってよく見て触って、という動作をずっと繰り返していた。
しかし、この場所には娯楽も無ければ、他の人も居ない。ただ、木々の生い茂る森の中だ。
眠くならない、空腹にならない、朝も夜も無い。風は時折通り過ぎ、木々を揺らして梢を鳴らすがただそれだけだ。
森の奥には澄んだ沢が流れていて、そこに足や手を浸して遊んでみたりもした。もしかしたら、此方側(樹とは反対側)から出られるのではないか、と道を進んでみたりもした。けれど、そこから外に出ることは出来なかった。
「つまらないわ、シロ。」
「私だって。なーんにもないんだもの。」
「こんなのじゃ、私達の頭もおかしくなってしまうわ。」
教えてもらった名前は遠の昔に忘れてしまったが、以前ここに居た男の様子を思い出してクローディアは身を震わせた。
「何とか外の世界の様子が分からないものかしら?ねえ、そこの鳥さん、街に行って来て、様子を聞かせて頂戴な。」
シローネが何の気なしに目の前の気に止まっていた小鳥に声をかけた。その小鳥は一瞬首をかしげたあと、まるで承知したというように木の先端から飛び立って行った。それが、ついほんのさっきの出来事。
そして。
「…すごいわ。新聞の切れ端よ、クロ。」
「…鳥まで操れるの?!」
「ううん、初めて。」
「初めて…。」
人間にだけ有効だと思っていた彼女達の力は、動物にも有効だったようで。境界線の向こう側から何処から持ってきたのか、ぺらり、と一枚の新聞紙を小鳥は落とした。
小鳥が新聞を運んできてくれるのは、それからずっと日課になった。小鳥たちには「ホープ」という名前をつけた。あっという間に同じ子は居なくなってしまうが、ずっと少女達に新聞紙の切れ端を運び続けてくれた。
そこには断片的にだが、移り変わりゆくタルメニアの姿が鮮明に見えた。
「王様が代替わりしたわ。」
「何回目よ。」
「分からないわ。もう数えてないもの。」
「私も。ほら見て、隣国で戦争が起こってるみたい。」
「へえ、平和な時って本当に少ないのね。」
「争い事が大好きよね、人間って。」
「人が沢山死んでるわ。何があったのかしら?」
「ふーん、感染症が起こったのね。」
「感染症?ここに入れば一発で治るわね。」
「…まあ、そうねえ。」
「小麦が豊作なんですって。」
「小麦?何だっけそれ。あ、パンの粉?」
「そう、多分それ。」
「この服素敵。ここを出たらオシャレしたいわ。」
「この帽子も良いわ。この髪留めも綺麗。」
「靴の形も違うわ!」
「この文字、難しいわね。」
「えっと、平和協定ですって。」
「へえ。平和ねえ。いつまで続くのかしら?」
毎日の同じような会話。そして、ずっと変わらない外の世界を確認する作業。
「すごい、見てこの日付。あれから五百年くらい経ってるわ。」
「…そう言えば、あの人城から続く道を掘るって言ってたわよね。あれってそれじゃない?」
「ん?」
シローネの言葉に、柔らかな草の上に寝転んでいたクローディアは顔を上げた。境界線の樹の向こう側、人がいる事にその時になって初めて気がついた。あの大きな樹を越えなければ、此方の音も姿もどうやら見えていないらしい。
「…本当だわ。穴掘ってる。」
「ええ、じゃああの人、まだ生きてるってこと?そういう事よね?」
「…成程、本当に死ねないってことね。」
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