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双子の魔女
狂気の人
しおりを挟む「そうだな。先ずは城より直接伸びる地下道を掘らせよう。王族と、その臣下数名だけが知る事のできる秘密の道だ。
そこを通り、最後に自分の足でこの森へと辿り着くようにしてやろう。樹の向こう側に出た後、自ら此方側に踏み込んでくるように。
時間はかかるだろう。けれど、それで娘さん達や私を傷つけた血は途絶える。後は、入れ違いで娘さん達は外に出たら良い。」
「…何故そんなに時間をかけるの?」
そう問いかけた時、さっきまで陽気に話をしていた男の顔がさっと暗くなった。何かに耐えるようにじっと地面を見つめた後、ポツリとつぶやくように言った。
「…私にはこの国に密偵として訪れた時、妻と子どもがいたんだ。子どもは、まだ娘さん達よりも幼かった。五つになったばかりだった。」
双子は息を飲んだ。無機質な人形のように真顔でそう語るジェナイトと異様さに気がついたからだ。
「私が捕まった時、妻と子どもは宿に居た。それを王が命じて捕まえ、連れてこられ…私の目の前で、何も知らなかった彼女達は嬲り殺された。」
「…!」
「私はシンダイの機密事項を話した。話せば妻と子どもの命だけは助けると言われて。だが、あ奴らは裏切った。どうして、怖い、痛い、助けてと泣き叫ぶ妻と子どもの叫び声が今も耳に焼き付いている。
その後私は腕を切り落とされ、此処に連れてこられた。途中で命を落とせてさえいれば。」
そう語る男の目は、狂気に塗れ鈍く光っていた。狂っている。
「嗚呼、憎い憎い。自国が滅びようと代替わりしていようと。この憎しみは消えることが無い。時間をかけ、全てを滅ぼさねば気がすまぬ程に憎いのだ。王族も家臣も、全て。」
「…そんな長い時間、生きていられないのに」
「そんな事はない。私達は死ねないんだよ。之は『呪い』だから。」
「呪い…?」
「ここに入った者は皆一様に『呪』を受ける。さっきも言ったろう?歳も取らず死ねなくなると。」
「でも、ここを出れば」
「一度変わってしまったものは、二度と変わらない。ここから解き放たれる『呪』以外は続くだよう。寧ろ私は其れを望んでいる。そうすれば、本懐が遂げられるだろうから。」
そう言って、男は小さく笑った。目は笑っていなかった。そして。
「ああ、解き放たれた。」
とつぶやきが聞こえた後。男の姿は森から跡形もなく消えたのだった。
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