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双子の魔女
不可侵の森
しおりを挟む「お、何だ。娘さん達はもう見えるのかい?」
「……。」
「何を、ですか?」
「目が見えなくても、影は見えるんだろう?」
硬い声で返事をするシローネが盲目である事を、男は直ぐに見抜いていたらしい。クローディアは痛む身体を必死に動かして、息を飲むシローネの前に出た。じっと男の目を見つめ『失せろ』と心の中で繰り返す。
すると、男は。
「失せろ?今は無理だがその内そうなるだろう。」
と言った。
心で念じた言葉が聞こえていることに愕然とする。思わず後ろへと身体が後ずさった。
「クロ…」
「……」
(この男、変だ)
追放の森にいるのだから、それはそうなのだが。明らかに今まで接してきた人間と違うという事に気がついた双子は、それまでに感じたことの無い不気味さと恐怖を感じていた。身体の内側がじわじわと薄ら寒くなっていくような。
男はそんな重苦しい少女達の気持ちに気がついたのか、突然小さく笑った。そして、まるで天気の話をするかのように朗らかに語り始めた。
「この森が、どうして罪人を捨て置く場所になったのか、その理由を知っているか?」
「?」
「此処は、人智を超えた力の中にある。一度中に入ってしまうと外には出られない。中というのは、あの大きな樹のこちら側の事だ。樹の向こう側は、まだあちらの世界だな。執行人達はそれを知っていてあの樹から奥には進まない。あそこからこちら側に投げ捨てられただろう?もし、娘さん達に元気があって執行人に殴りかかろうとしてもそれは出来なかっただろう。」
「…何を言っているの?」
言っている意味が分からないと、戸惑う双子を他所に男は話しを続けた。
「ここは、今まで生きてきた世界とは別だ。時は驚く程に進みが遅くなり、この空間の何処を歩き回っても出口は無い。ああ、影は居るが何かをこちらにしてくる訳でもない。恐らく、この森を創った誰かの残滓だろう。」
そこまで男が言った時、クローディアはふらりと立ち上がった。音に吃驚したシローネが慌てたように此方を振り仰ぐ。
クローディアは痛む足を引き摺りながら、先程の話にでてきた樹の方へと進んだ。根の張った地面は歩き辛く何度も転けそうになったが、必死に前へと進んでいった。しかし。
樹の前を通り過ぎた瞬間に、前方に座り込む妹の背中が見えた。そしてその前に屈む男の姿も。
「…っ?!」
驚愕して、後ろを振り返るとそこには大きな1本の樹。愕然としながら、再度前を通り過ぎるとまた目の前に二人の姿が現れる。何度繰り返しても同じ。
冷や汗が全身に滲むのを感じ、クローディアはその場に崩れ落ちた。
「クロ…?」
シローネは腹部を押さえながらゆっくりと立ち上がると、クローディアの方へと歩み寄ろうとしてその場で転んだ。ドサッという音がして小さな呻き声が上がる。
「無理に動かない方が良い。森は馴染むのに時間がかかるからな。安心しなさい、その傷は癒える。それ以上の事もあるかも知れないぞ?目が見えるようになったり、喋れるようになったり。私も腕が生えたからな。
まあ直に慣れるだろう。」
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