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探さないと決めた
最後の貴方
しおりを挟む暗い地下の密閉された空間の中。天井から吊るされた繭の様な形の水槽を見上げ、機器と機器を繋ぐため、蔦のように部屋中に這う電線を見つめながら、無様につられたマリオネットのようだと思った。
もう人間では無くなってしまったというのに、彼女の声を聞いた瞬間、僕はまだ人としての感情を思い出したから。
そして、奇妙な程にマリーアンヌの事を鮮明に覚えていたから。
僕が彼女をマリーアンヌだと解るのは、あの双子の魔女の呪いなのだろう。黒と白、そうお互いに呼びあっていたあの二人の幼子の。
彼女達は僕の血に罪の償いを望んだ。祖先が冒した罪を、僕が贖うべきだとそう言っていた。
何度生まれ変わろうとも、最終的には彼女を思い出し、その度に強制的に人生を終えてしまうのもきっとその効力が続いているからであるのは、間違いないことだろう。
彼女達の生きた時間の分償いが必要なのであれば、あと何度その機会が訪れるのか。
そう思っていたけれど。
「…本当の事を言うとさ、君のことずっと探していたんだよ。」
彼女の口から発されたその言葉に、マリーアンヌはもうアレクセイを朧気にしか覚えていないのだ、と僕は察した。
ああ、彼女は呪いから解かれつつあるのだ、と。
思えば、一つ前の人生の最期に聞いた彼女の言葉も「大切な人」、「逢いたい人」というもので、具体的なものでは無かった。大勢の前で話す内容だから曖昧にしたのではなく。
その時にはもう、アレクセイが誰だったのか、自分の何だったのかが定かで無かったのだろう。だから彼女は彼の事を「ソウルメイト」と言った。
今世は人間によって造られた人工生命体だというのに、無いはずの心臓がチリチリと痛んだ。魔女達の呪いを、僕のとばっちりで受けてしまったマリーアンヌが自分をこの数回の人生で覚えていてくれただけでも、大変な奇跡で幸せな事だ。それなのにそんな風に思うなどと、なんと身勝手なんだろう。
だが、彼女の記憶から消えていく事を悲しいと思いながらも、心の何処かで安心しているのもまた事実だった。
「…じゃあ、顔を見せないとね。」
そう言ったのは、それが彼女と逢うのは最後になるだろうという直感からだった。
電脳と繋がった部屋中を巡る回路に潜り、地下中の電気をショートさせて散った火花で灯りをつけた。
その時に見た、彼女の瞳を僕は絶対に忘れないだろう。
誰が意図してそう彼女を創りあげたのかも分からないが、光に浮び上がり煌めく瞳は、まるでタンザナイトのような美しい紫色だったから。昔と何も変わらない、あの春の日の彼女がそこに居た。
「貴方の目の色、綺麗。」
リアがじっと僕の目を見つめる。僕の目の色も紫色をしているのだろうか。
「君の目の色も、綺麗だよ。」
対極のように、真っ白な君と真っ黒な僕。
まるであの双子のようだ、そんな事を考えながら闇に意識が溶け始めるのを感じた。インクが染み出すようにじわり、と気が遠のく。
(…君が魂の輪郭だけで、僕の覚えているのは、言葉通り僕を愛してくれていたからなのかな。)
そうであるのならば、なんと幸せな事か。一度目、初めて会ったあの遠い日を思い出す。
「また、逢えるかな。」
そう問いかけられて。繋いでいた手を少し強く握られて、僕はぼんやりとしながら素直に思った事を言った。
「…きっと、見つけるよ。」
僕の囁くような声は彼女に聞こえたのか、分からなかったけど。微かにマリーアンヌが微笑んだような気配がした気がした。
そして、パタンと本が閉じるように、僕の意識は宙に霧散して消えた。
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