【完結】君との約束と呪いの果て

須木 水夏

文字の大きさ
上 下
7 / 25
移り変わる人生

転生1度目

しおりを挟む





 二度目に生まれたのはハーガス王国と呼ばれる、一度目とは全く違う場所だった。
 名前はマディオ。青色の瞳と茶色の髪の健康的な少年だった。親が商売を営んでいて、平民としては少し裕福な家庭に産まれた。庭には大きな林檎の木や木苺の実のなる畑があって、実が成るとそこから取って食べたりもした。制限されることがあまりなく、とても自由だった。

 しかし、マディオは物心ついた時からずっと心の内に焦燥感を抱いていた。

 見つけなければならない大事な物があるようにずっと感じているのに、それが何かが全く検討もつかない。




(何故だろう。良く分からないけれど、とても…)




 彼は良く笑い走り回り、とても元気の良い子どもだったが、一人になると時々遠くを見ながら、その不安で得体の知れない気持ちがどこから来るのかを、じっと考えている事があった。マディオの母親は時折塞ぎ込む息子を心配し、気晴らしになるように彼に本を読むことを教えた。
 
 

 マディオは、母に与えられた本を直ぐに読めるようになった。そればかりではなく誰に教えられることも無くとも計算も正確にでき、字の読み書きも同年代の誰よりも早くできた。幼い頃より神童と呼ばれ、頭の出来を良く褒められた。

 十歳になる前より、実家の雑貨屋で扱う商品を仕入れするのに便利な周辺諸国の言葉を次々に覚え父親よりも流暢に操る事が出来るようになったのは、もしかしたら一度目の人生で王子として何ヶ国語も覚える必要があった経験が幸いしたのかもしれない。
 二度目の人生は、今思えば戦争に怯えることも無く、食べ物にも着る物にも困ることなく、過度な重圧を受けることもなく。跡取りとして必要とされ生きていた。幸福な人生だった。


 育つ過程で、マディオは一度目の人生の記憶を思い出すことは無く、二十歳を過ぎたあたりでマリーアンヌの事や、前世での記憶を思い出した。

 それは、突然の事だった。


 思い出す直前に、という大きな国へと行った時の事だ。
 仕入れた商品を馬車に積んでもらっている時に、すぐ近くの道路で子どもが遊んでいた。小さな丸い色のついた石を投げて、円で囲った中へと入れられれば、投げた者がその周りを一周しながら歌う遊びらしい。彼はそれを馬車の幌に寄りかかりながら何となしに見ていた。
 聴こえてくるのは、マテア国の言葉で歌われる、拙い歌。


 


 ちいさな  の
    うらぎりの おうさま

 ひ から にげて
 くにを すてた

 のこした たみ は
 ひ のなか でれずに 

 さいごの さいごで
 もえてって
 
 だれも だーれも 
 いなくなった
 





 コツン、と子どもの投げた小石が地面に当たる音が大きく耳の中で響き、波紋のように広がってそれ以外の音が何も聞こえなくなった。



「リ、ア…」



 その瞬間に、マディオは全てを思い出した。



 かつてタルメニアと呼ばれる国があった事、その国の王子であった事。そして、愛した女性マリーアンヌがいた事、彼女を独りで死なせてしまった事を。




 そして子供の頃からずっと探していたが、マリーアンヌだった事をようやく思い出せたのだが、マディオとしての人生の記憶はそこで終わってしまった。

 思い出した記憶による衝撃で、その後の事を覚えていないのか。それとも直ぐに事故や病気で死んでしまったのか。何も分からなかった。

 父と母、そして自分を助けてくれていた周りの人々はどうなったのか。二度目の人生はそればかりに悔いが残った。











 気がつけば、次の人生が始まっていた。

 三度目はノドリア国の辺境伯爵の息子として生まれ、子どもの頃から戦と深く関わる立場に置かれていた。
 ノドリアはマテア共和国のすぐ東側にある国だった。


 そう。三度目となる彼と彼女のその人生を奪ったのも、まただったのだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

【完結】婚約破棄は許しましょう。でも元魔法少女だからって、煉獄の炎で火あぶりの刑って・・・。それ、偽物の炎ですよ。

西東友一
恋愛
貴族の令嬢として、婚約の話が進んでいたミーシャ。 彼女には一つ秘密があった。それは小さい頃に迷子になって、魔法使いさんに教わった魔法が使えることだ。知っているのは妹だけ。なのに婚約者のアレクにバレてしまって・・・。 あなたの心の炎は、怒りの炎?煉獄の炎?それとも・・・聖火?

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

婚約破棄の裏事情

夕鈴
恋愛
王家のパーティで公爵令嬢カローナは第一王子から突然婚約破棄を告げられた。妃教育では王族の命令は絶対と教えられた。鉄壁の笑顔で訳のわからない言葉を聞き流し婚約破棄を受け入れ退場した。多忙な生活を送っていたカローナは憧れの怠惰な生活を送るため思考を巡らせた。

死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸
恋愛
形だけの王妃だった私が死に戻ったのは魔術学院の一学年だったころ。 なんのために戻ったの? あの未来はどうやったら変わっていくの? どうして王太子殿下の婚約者だった私が、大公殿下の婚約者に変わったの? なろう様でも公開中です。 ・1/21タイトル変更しました。旧『死に戻り王妃とふたりの婚約者』

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...