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移り変わる人生
転生1度目
しおりを挟む二度目に生まれたのはハーガス王国と呼ばれる、一度目とは全く違う場所だった。
名前はマディオ。青色の瞳と茶色の髪の健康的な少年だった。親が商売を営んでいて、平民としては少し裕福な家庭に産まれた。庭には大きな林檎の木や木苺の実のなる畑があって、実が成るとそこから取って食べたりもした。制限されることがあまりなく、とても自由だった。
しかし、マディオは物心ついた時からずっと心の内に焦燥感を抱いていた。
見つけなければならない大事な物があるようにずっと感じているのに、それが何かが全く検討もつかない。
(何故だろう。良く分からないけれど、とても…)
彼は良く笑い走り回り、とても元気の良い子どもだったが、一人になると時々遠くを見ながら、その不安で得体の知れない気持ちがどこから来るのかを、じっと考えている事があった。マディオの母親は時折塞ぎ込む息子を心配し、気晴らしになるように彼に本を読むことを教えた。
マディオは、母に与えられた本を直ぐに読めるようになった。そればかりではなく誰に教えられることも無くとも計算も正確にでき、字の読み書きも同年代の誰よりも早くできた。幼い頃より神童と呼ばれ、頭の出来を良く褒められた。
十歳になる前より、実家の雑貨屋で扱う商品を仕入れするのに便利な周辺諸国の言葉を次々に覚え父親よりも流暢に操る事が出来るようになったのは、もしかしたら一度目の人生で王子として何ヶ国語も覚える必要があった経験が幸いしたのかもしれない。
二度目の人生は、今思えば戦争に怯えることも無く、食べ物にも着る物にも困ることなく、過度な重圧を受けることもなく。跡取りとして必要とされ生きていた。幸福な人生だった。
育つ過程で、マディオは一度目の人生の記憶を思い出すことは無く、二十歳を過ぎたあたりでマリーアンヌの事や、前世での記憶を思い出した。
それは、突然の事だった。
思い出す直前に、マテアという大きな国へと行った時の事だ。
仕入れた商品を馬車に積んでもらっている時に、すぐ近くの道路で子どもが遊んでいた。小さな丸い色のついた石を投げて、円で囲った中へと入れられれば、投げた者がその周りを一周しながら歌う遊びらしい。彼はそれを馬車の幌に寄りかかりながら何となしに見ていた。
聴こえてくるのは、マテア国の言葉で歌われる、拙い歌。
ちいさな たーめにあ の
うらぎりの おうさま
ひ から にげて
くにを すてた
のこした たみ は
ひ のなか でれずに
さいごの さいごで
もえてって
だれも だーれも
いなくなった
コツン、と子どもの投げた小石が地面に当たる音が大きく耳の中で響き、波紋のように広がってそれ以外の音が何も聞こえなくなった。
「リ、ア…」
その瞬間に、マディオは全てを思い出した。
かつてタルメニアと呼ばれる国があった事、その国の王子であった事。そして、愛した女性がいた事、彼女を独りで死なせてしまった事を。
そして子供の頃からずっと探していた何かが、マリーアンヌだった事をようやく思い出せたのだが、マディオとしての人生の記憶はそこで終わってしまった。
思い出した記憶による衝撃で、その後の事を覚えていないのか。それとも直ぐに事故や病気で死んでしまったのか。何も分からなかった。
父と母、そして自分を助けてくれていた周りの人々はどうなったのか。二度目の人生はそればかりに悔いが残った。
気がつけば、次の人生が始まっていた。
三度目はノドリア国の辺境伯爵の息子として生まれ、子どもの頃から戦と深く関わる立場に置かれていた。
ノドリアはマテア共和国のすぐ東側にある国だった。
そう。三度目となる彼と彼女のその人生を奪ったのも、またマテアだったのだ。
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