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王子様がいました
しおりを挟むそもそもの始まりは、アリア視点より始まる。これも、マテオを印象付ける為の手法だと思うが、最初は彼女が主人公かと思ってしまうほど、事細かに物語は描かれていた。
15歳になり学院に入学したその日、広大な敷地内で式典の行われている講堂の位置が分からず、記憶を取り戻す前の伯爵令嬢アリア・リエールは迷子になった。
始まる一時間前に学院に到着していたものの、散々歩き回っても何故かそれらしき建物は一向に見つからず、歩き疲れたアリアは一人で途方に暮れて庭園の端っこで足を止めた。
広いとはいえ、講堂が見つからないなんて事は普通はないだろう。今思えば、それもアリアとマテオを出会わせる為の強制力だったに違いない。
歩き疲れた彼女がぼんやりと見つめている整備された中庭は、白やオレンジ、黄色や赤の色とりどりなラナンキュラスの花が咲き乱れていて、鮮やかな色彩が陽の光に揺れていて壮観だった。
(わあ、珍しい。紫色の花も植えてあるんですね…)
アリアの母は銀髪で、その月の光を具現化したのような姿はまるで妖精のように美しかった。
アリアの瞳の色は母譲りで珍しい紫水晶のような色をしていた。少女の緩やかに波打つ背中まで伸びた髪の色は、光の加減によっては金髪にも見えないことは無いが、父親譲りの薄茶色だった。
少女は目鼻立ちは整っていたものの、生きた宝石と讃えられた母と比べると、とても大人しそうな見た目の…実際に内向的な大人しい少女だった。
もう入学式に参加することを諦め、このまま見えている塀沿いに歩いて出口を探す方が簡単なのではないかと思いかけていたその時。
そんな彼女に、優しく声を掛けてくれたのがマテオだった。
「君、新入生?」
「っ!…は、はい…。」
臆病な性格のアリアは、声をかけられた瞬間に小さく肩を揺らした。
そして恐る恐る振り返ると目線を上に上げる。目の前で柔らかく微笑む少年の美しさに呆然とし、今度は別の意味で震えた。
なんて綺麗なんだろうと。まるで天使のような人だと思った。彼女は一目で恋に落ちた。
陽に透けるプラチナブロンドは腰の辺りまで伸びていて、それを襟元で結んでいる。まるで晴れた日の湖のように澄んだ水色の瞳は、優しい光を湛えていた。
一見少女のようにも見える柔和な顔を持つその人は、少女にしては高すぎる身長と着ている制服、そして低い声で男性なのだと分かった。
「式典会場はあちらだけど、迷子かな?」
「あ、す、すみません…。」
「ふふ、広いからね、仕方ないよ。」
子どもの頃から大人しかったアリアは、歳の近い子達とも上手く関われず、特に活発で少し粗暴な男の子達の事を苦手としていた。
その為、兄以外の少年達と言葉を交わしたことかあまりなく、どう接していいのかも分からずにいつもオドオドしていた。けれど顔と雰囲気の中性的な少年に、アリアは恋をした瞬間に警戒を解いていた。
今思えば、それも強制力というものなのだろう。アリアは元々面食いという訳では無い。男性に対しての免疫は確かに無かったが、それならば中性的であろうとなかろうと、マテオの事も警戒するのが、通常の状態であれば普通の事だろう。でも簡単に警戒を解いてしまった。
目の前には微笑みを称えるマテオ。アリアは頭がぼーっとして目が離せなかった。
「着いておいでよ、私が案内しよう。
私はマテオ・アレンデラス。君の名前は?」
「…、あ、アリア・リエールと申します。」
「なるほど、リエール伯爵のご令嬢なのだね。」
アレンダラス…聞いたことがある…それどころかこの国の筆頭公爵家の子息だわ、と思った時には、アリアは差し出された彼の手を取ってしまっていた。
本来であれば知らない男性の跡を着いていくなんてことは無い。けれどその時かなり心細くなっていたのと、そんなアリアに朗らかに微笑みながら、手を差し伸べてくれたマテオに、アリアは何も考えられなくなり、夢見心地で手を伸ばしてしまったのだ。
それがどんな結果を生むのか、考えもせずに。
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