9 / 12
独りよがりの恋でした
しおりを挟む私はその後も勉学をし続け、ペリオッドと並んでその年の最優秀成績者となることが出来た。それは学園を卒業するまで変わらなかった。
私たちは、あの初めてのお見合いの後、少しづつ距離を縮めていった。教室で一緒に勉強をしたり、お互いの家を行き来してお茶をしたり本の貸し借りをしたり、時には街へと出かけてデートもした。
ペリオッドは口数が多い方ではなかったけれど知識が豊富であり、時々ひとつの興味のある事柄に関して深くまで掘り下げて話をすると、アンティーヌが思い付かないような意見を出してくれるのがとても新しく、楽しかった。
そして、アンティーヌがいつ彼のことを見ても、優しい目で見つめてくれていることに気がついてからは、恥ずかしさと共に嬉しさが心に込み上げた。
けれど、その愛を信じようとしても何処かに自分が愛されるはずがないという気持ちがあった。それはアンティーヌの問題であったが、ペリオッドは私の心の憂いに気づき、心配をしてくれた。
心配をされる事にも慣れていなかった私は焦って、彼に自分が家族からどのように扱われているのかを話した。彼のせいでは無い、という事を伝えるためだったが、それを聞いたペリオッドは無表情になってしまった。
そして私にこう言った。
「結婚をしましょう、今すぐに。」
「ええっ?!」
流石に直ぐにとはいかなかったが、学園を卒業をすると同時に結婚をする事となり、伯爵夫人の仕事を学ぶ為に私は伯爵家へと先に住居を移した。
お父様は確かな繋がりがで出来て喜び、お母様は最後まで無関心で、双子たちは寂しがって会いに来てくれると約束してくれた。
伯爵家に住むようになった後、アンティーヌは周りの友達から雰囲気が変わった、綺麗になったと言葉をかけられるようになった。
褐色の髪も薄茶色の瞳も、以前のままだったけれど私が鏡を覗くともうそこには、不安げにこちらを見つめる少女はどこにも居なかった。そこには凛とした瞳の少女がいた。
結婚を半年後に控えた頃に、彼は初めの出会いの時よりもずっと砕けた口調で言った。
「君をずっと見ていたから、僕はアンティーヌが誰を見ていたのかも知っているんだ。」
「…それは…。」
私は驚いて、でもペリオッドが穏やかに笑っているのでからかわれたのだと直ぐに気づき、少しだけムッとした表情を作ってみせた後に同じように微笑んだ。
「…あれは、独りよがりの恋でした。」
孤独な子どもの淡くて悲しい初恋。
もうずっと昔の事のように感じるほど、セルージャ子息に対する私の気持ちは、心のどこにも残っていない。
彼に対して恨む気持ちはない。それどころか、あの辛かった幼少期において、幾度となく精神的に助けられた事に感謝していた。
思い出すと未だに、誰にも愛されていなかったその当時の自分を思い出して胸がざわつくけれど。
でもそれも、僅かに感じるほどだった。そうなれるほどに、目の前に座るペリオッドはアンティーヌに対して恋と呼ぶには優し過ぎる、何よりも温かい愛情を示してくれた。
「それを言うと、僕も最初は君に独りよがりの恋をしていたことになるよ。」
「貴方は、…今は、そうではないでしょう…?」
少し頬が火照るのを感じながら、アンティーヌが睨むように上目遣いでペリオッドを見ると、彼は余裕そうに笑っていたのに急に顔を真っ赤にして気まずそうに視線を逸らした。
ペリオッドのそういうところを、ずるくて可愛いとアンティーヌは思った。頬を染めたまま、私はずっと思っていたことをペリオッドに伝えた。
「子どもの頃から、ずっと見ていた夢があるの。
愛する人と手を繋いで、幸せを分かち合いながら生きていきたいの。…リオ、貴方とならきっとそうなれる。」
「…僕には君が必要だ。君の事を愛している。だからアンとこれからずっと一緒にいたい。死が二人を分つまで一緒に生きよう。」
握りしめた手の温もり、そしてペリオッドの泣きそうな若草色の瞳に、微笑みを浮かべながら泣いている自分の顔が映っているのを見て、アンティーヌは夢…野原を歩きながら愛を囁かれる夢を思い出し、あの夢は叶うのだと、もう疑うことはなかった。
それから半年後。
よく晴れた空の下、アンティーヌはペリオッドと幸せな結婚をした。そして末永く、しあわせに暮らしたのだった。
━━━━━━━━━━★
これで本編は完結です。
お読みくださいまして、ありがとうございました。
番外編にて、アンティーヌの初恋の相手、ジオスについて少しだけ描いております。もし良かったら読んでやってください。
360
お気に入りに追加
619
あなたにおすすめの小説
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ただずっと側にいてほしかった
アズやっこ
恋愛
ただ貴方にずっと側にいてほしかった…。
伯爵令息の彼と婚約し婚姻した。
騎士だった彼は隣国へ戦に行った。戦が終わっても帰ってこない彼。誰も消息は知らないと言う。
彼の部隊は敵に囲まれ部下の騎士達を逃がす為に囮になったと言われた。
隣国の騎士に捕まり捕虜になったのか、それとも…。
怪我をしたから、記憶を無くしたから戻って来れない、それでも良い。
貴方が生きていてくれれば。
❈ 作者独自の世界観です。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる