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独りよがりの恋でした
しおりを挟む私はその後も勉学をし続け、ペリオッドと並んでその年の最優秀成績者となることが出来た。それは学園を卒業するまで変わらなかった。
私たちは、あの初めてのお見合いの後、少しづつ距離を縮めていった。教室で一緒に勉強をしたり、お互いの家を行き来してお茶をしたり本の貸し借りをしたり、時には街へと出かけてデートもした。
ペリオッドは口数が多い方ではなかったけれど知識が豊富であり、時々ひとつの興味のある事柄に関して深くまで掘り下げて話をすると、アンティーヌが思い付かないような意見を出してくれるのがとても新しく、楽しかった。
そして、アンティーヌがいつ彼のことを見ても、優しい目で見つめてくれていることに気がついてからは、恥ずかしさと共に嬉しさが心に込み上げた。
けれど、その愛を信じようとしても何処かに自分が愛されるはずがないという気持ちがあった。それはアンティーヌの問題であったが、ペリオッドは私の心の憂いに気づき、心配をしてくれた。
心配をされる事にも慣れていなかった私は焦って、彼に自分が家族からどのように扱われているのかを話した。彼のせいでは無い、という事を伝えるためだったが、それを聞いたペリオッドは無表情になってしまった。
そして私にこう言った。
「結婚をしましょう、今すぐに。」
「ええっ?!」
流石に直ぐにとはいかなかったが、学園を卒業をすると同時に結婚をする事となり、伯爵夫人の仕事を学ぶ為に私は伯爵家へと先に住居を移した。
お父様は確かな繋がりがで出来て喜び、お母様は最後まで無関心で、双子たちは寂しがって会いに来てくれると約束してくれた。
伯爵家に住むようになった後、アンティーヌは周りの友達から雰囲気が変わった、綺麗になったと言葉をかけられるようになった。
褐色の髪も薄茶色の瞳も、以前のままだったけれど私が鏡を覗くともうそこには、不安げにこちらを見つめる少女はどこにも居なかった。そこには凛とした瞳の少女がいた。
結婚を半年後に控えた頃に、彼は初めの出会いの時よりもずっと砕けた口調で言った。
「君をずっと見ていたから、僕はアンティーヌが誰を見ていたのかも知っているんだ。」
「…それは…。」
私は驚いて、でもペリオッドが穏やかに笑っているのでからかわれたのだと直ぐに気づき、少しだけムッとした表情を作ってみせた後に同じように微笑んだ。
「…あれは、独りよがりの恋でした。」
孤独な子どもの淡くて悲しい初恋。
もうずっと昔の事のように感じるほど、セルージャ子息に対する私の気持ちは、心のどこにも残っていない。
彼に対して恨む気持ちはない。それどころか、あの辛かった幼少期において、幾度となく精神的に助けられた事に感謝していた。
思い出すと未だに、誰にも愛されていなかったその当時の自分を思い出して胸がざわつくけれど。
でもそれも、僅かに感じるほどだった。そうなれるほどに、目の前に座るペリオッドはアンティーヌに対して恋と呼ぶには優し過ぎる、何よりも温かい愛情を示してくれた。
「それを言うと、僕も最初は君に独りよがりの恋をしていたことになるよ。」
「貴方は、…今は、そうではないでしょう…?」
少し頬が火照るのを感じながら、アンティーヌが睨むように上目遣いでペリオッドを見ると、彼は余裕そうに笑っていたのに急に顔を真っ赤にして気まずそうに視線を逸らした。
ペリオッドのそういうところを、ずるくて可愛いとアンティーヌは思った。頬を染めたまま、私はずっと思っていたことをペリオッドに伝えた。
「子どもの頃から、ずっと見ていた夢があるの。
愛する人と手を繋いで、幸せを分かち合いながら生きていきたいの。…リオ、貴方とならきっとそうなれる。」
「…僕には君が必要だ。君の事を愛している。だからアンとこれからずっと一緒にいたい。死が二人を分つまで一緒に生きよう。」
握りしめた手の温もり、そしてペリオッドの泣きそうな若草色の瞳に、微笑みを浮かべながら泣いている自分の顔が映っているのを見て、アンティーヌは夢…野原を歩きながら愛を囁かれる夢を思い出し、あの夢は叶うのだと、もう疑うことはなかった。
それから半年後。
よく晴れた空の下、アンティーヌはペリオッドと幸せな結婚をした。そして末永く、しあわせに暮らしたのだった。
━━━━━━━━━━★
これで本編は完結です。
お読みくださいまして、ありがとうございました。
番外編にて、アンティーヌの初恋の相手、ジオスについて少しだけ描いております。もし良かったら読んでやってください。
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