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彼と彼女
しおりを挟む最初は友だちとして、そして次第に異性として意識し始めた時、それまでどうやって生きていったら良いのか悩んでいた私の世界がやっと動き始めたと、そう思った。
(ジオと、共に生きていきたい。)
男爵同士であれば、そして父親同士の商会の繋がりであれば、将来的に結ばれる可能性がないとは言えない。
ジオスはとても綺麗な少年だったし、自分のような地味で役に立たない娘がそんな大きな夢を持つことは本当はいけないのかもしれない。
そう思いながらも、ジオスから初めてキスをされた時、喜びで涙が溢れた。心の奥がジワジワと熱くなった。やっと生きる指標をみつけたのだと、心の底からそう思った。
それから私は、彼に相応しい女性になる為に努力を始めた。ジオスは大きな商会の跡取りで、彼と一緒にいる為には覚えるべき事は沢山あると思ったからだ。
元々、勉強は嫌いではなかったし計算にも強かった。想いと行動が伴って必死に勉強をし始めた結果、元々良くも悪くも無かった学園での成績はぐんぐんと上がり、トップクラスへと躍り出た。廊下に貼りだされたテストの結果に、友人からの称賛の声に実感が湧いた。
そしてその年に、自身が興味を持つ分野についての論文を書く授業があり、アンティーヌは見事、その内容でも表彰をされた。
お父様からも一度だけ「良くやった」と褒められた。お母様は「女が勉強を頑張るなんて、なんて小賢しい」と冷めた目でこちらを見ていたけれど、やっと認めてもらえた、と言う気持ちで胸がいっぱいになった。夢みたいだった。
大丈夫、私はきっと大丈夫。頑張ればきっとジオスに相応しい人間にれる。そばにいられる日がくる。
そう信じて疑わなかった。
(でも、それは違った。)
『アンティーヌのことが好きなの?』
『…どういうこと?』
『私よりも?』
『…フィーに対する気持ちとは違うから比べたことがないな。何故そんなことを聞くの?』
『私は貴方の婚約者と決まっているでしょう?何故アンティーヌと仲良くするのかと聞いてるのよ。はっきりと言わせないでくれる?』
『…気をつけるよ。』
あの日。
何時もは待ち合わせをしていたけれど、たまたま約束をしていなかったあの日。借りていた本を返そうとやって来た図書館の本棚の影で、ジオスの気持ちと立場を聞いた時。
混乱で思考が停止をした。
(婚約…誰が、誰と…?)
『…大体あなた、アンティーヌが自分の事を好きだと分かっているのに、何故彼女が誤解するような行動をとっているの?』
『…別に、そんな事はしていないよ。』
『私が知らないとでも思っているの?二人でこそこそとここで会っているのも知っているのよ?』
『…フィーが誤解しているような事は何もない。』
『どうだか…。』
『ご機嫌斜めにならないで。僕は君を愛してるんだから。』
『…そうやっていつも誤魔化して…。』
フィオナの不機嫌な声に、静かな声で返すジオスの声を聞きながら、私は足音を立てずに数歩後ろに下がった。
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