3 / 14
姉妹の違い
しおりを挟むユリアーナは幼い頃より、美しく厳格で、それでいて優しい伯爵家の当主である母とどこまでも穏やかな父に、ステイフィルドを継ぐ女伯爵となる者として、熱心に教育されてきていた。
そこへと八つの時にやって来たアゼリアは来た当初こそ自分の世界に閉じこもっていたが、ユリアーナの根気のある励ましにより、半年経つ頃には生来の明るく人懐っこい性格へと戻っていた。
半面、生家の男爵家では末っ子だったせいもあるのか、お淑やかさや上品さとはまだ大きな隔たりがあった。
無闇矢鱈に走り回っては行けないことや、大きな声で笑ったり喋ったりしてはいけないこと。
食べる時は小さくちぎったり一口サイズに刻んだ物を口に運ぶことや、目上の人の目を真正面から見据えてはいけないこと、歩く時は上半身を揺らさずゆっくり動かなくてはいけないことなど、アゼリアはまだ知らない事だらけで。
「なぜ口を大きく開けて笑ってはならないのですか?」
「口を大きく開けるのははしたないでしょう?微笑む時は扇子で口元を隠すものなの。」
「…なぜダメなのか分かりません。」
「貴族には貴族らしく振る舞う義務があるの。美しく正しく、きちんとした生活を行わなければならないという事。それは、誰の目から見ても明らかでなければならないの。」
「自由に微笑んでも、それは正しいと思います。」
「そうね。けれどそれでは貴族らしくないわ。」
「…。」
「貴族が貴族であらん為の作法は他にも色々あるのよ。領地の方々に尊敬されるようにきちんと身につけましょう?」
「…わかりました…。」
説明を聞いてもアゼリアは不満そうに頬を脹らます。それでも、ユリアーナや家庭教師が意味があることなのだとしつこく教えれば、納得してマナーや勉強と向かい合う素直な子どもだった。
「ユリアーナは本当に優秀だな。将来この伯爵家を継ぐのに相応しい、素晴らしい私の娘だ。」
「あらいやだ、わたくしの娘よ」
「それはそうだ。間違いなく君の娘だよ」
ある時の夕食時、何の話の続きだったのか...ああ、そうだ、あれは家庭教師の報告でユリアーナの成績を褒められた時だったか。
父は満足そうに少女に微笑みながらそう言った。そして、母も嬉しそうに笑っている。褒められたユリアーナははにかんだ笑顔を浮かべ、ありがとうございます、と落ち着いて答えた。
彼の言葉にアゼリアはきょとんと彼を見つめた。そして一度ユリアーナを見ると首を傾げ、自分を指さした。
「...わたしはどうなりますか?」
「アゼリアかい?アゼリアは、将来お嫁に行くのだよ。」
「...およめ?花嫁になれるのですか?」
「ああ、そうだね。」
アゼリアは嬉しそうに顔を輝かせた。
そんな義妹を見て、母は優しく微笑んだ。
「王子様は難しいかもしれないけれど、王子様ぐらい素敵な人には出会えるんじゃないかしら?」
「まあ、すてきです!お姉様のご結婚相手のディオ様くらい素敵だと良いです...!」
アゼリアの弾んだ声に、ユリアーナはぴくりとまつ毛を震わせた。アゼリアのその言葉に父も母もただ微笑んでいる。
「そうだな。彼くらいの好青年は中々居ないだろうが、きっと良い人を見つけよう。」
「貴女であれば、きっと良い出会いがあるはずよ。」
「はい!」
嬉しそうに頬を染め、にっこりと微笑んだアゼリア。ふとユリアーナの顔に目を止めると、無邪気な笑顔を浮かべた。そんな妹に彼女も微笑み返す。
複雑な思いを心に秘めながら。
2,249
お気に入りに追加
4,862
あなたにおすすめの小説

私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。



結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる