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ステイフィルドの聖女
しおりを挟むステイフィルドには聖女の伝承が残っている。
そして実際にその聖女は今代まで息づいている。
大昔、この世にまだ白蘭と呼ばれる不死の花がある場所に咲き乱れていた頃。まだ昼も夜も無く、人という生命が産まれたばかりのその世界の中。
白蘭は自らは不死の花ではあったが、産まれてきた生命にとっては、命を奪う猛毒の花だった。
とある日、一人の男が友人といる時、冗談で白蘭の花弁を口に含みかじって食べた。そしてその直後呼吸困難に陥って直ぐに死んでしまった。
それを見聞きした人々は白蘭を恐れ、人間の毒になる花がこの世にあってはいけないと、花を根絶やしにしようとして白蘭の群生を燃やしてしまった。
すると何ということだろう。
燃え上がった花は煙の中に瘴気を発し、近くにいた人間はそれを吸い込んだ。その煙は一瞬で人々を死に至らしめた。
その出来事により更に花に対して恐慄いた人々は、その場所より少し離れた土地で暮らすようになったが、これ以上花の侵食を許すことのないように白蘭の監視者が必要となった。それは親のいない少女だった。
その少女は一人だけ変わった色をして生まれた。不気味に光っているように見える薄水色の瞳と闇色を薄めたような色の髪。両親には似ておらず、周りの人間に馴染めず死んでも特に影響のない人物へと成長した少女は、白蘭の監視者にぴったりな存在だった。
少女は白蘭の群生の近くに掘っ建て小屋を建て、その中で暮らしていた。ほかの人々は遠巻きに、少女が白蘭の中に佇んでいる姿を度々目撃した。白蘭の群生はその土地でそれ以上は広がることはなく、人々は安心して暮らしていたのだが。
また何年が経つと、その白蘭の群生に不思議な現象が起きた。日が暮れ、辺りが闇に包まれていく中、白蘭の花が光を帯びるようになったのだ。薄らと輝く花々の姿に対して人々は薄気味悪く思い、またその中で普通に暮らす少女に対してもまた同じ思いを持った。
そしてもう一つ、不可解な事があった。
『あの娘はいつまで経っても歳をとらない』
『子どもの頃から見てきたが、何十年経っても変わらない』
『薄気味悪い女だ』
『化け物だ』
何気ない子ども達の御伽噺から、実際に少女と話をしたことのある大人達まで、いつの間にかその話を信じるようになり。貧しい暮らしの中で誰かを怨みたかったのか。少女に対して無視をし、物を売らなくなり、石をぶつけるようになった。
そして。
以前あった事件を物語の出来事だと信じなかった人々は、再び数十人で集まって、とある夜に白蘭の野に枯れ草をばら撒き、そこに火をかけた。
そしてあっという間に立ち上る白蘭の燃える煙と香りの中で、人々は立っていられずにしゃがみこんだ。その、死にゆく視界の中で。
燃え盛る白い花の中、少女は涼しい顔で立ち尽くし、燃えゆく花々をじっと見つめていた。炎に照らされるその顔は、化け物と呼ぶには美しすぎた。その身体は炎から護られるかのように白い糸のようなものに包まれて、最終的にはまるで大きな繭のようになった。
火が収まった時。
その繭に人々が恐る恐る触れると、ある者は傷が治り、ある者は視力が回復し、またある者は不治の病より復活した。
人々が触れる度に繭は小さくなって行き、やがて中に入っているはずの少女諸共形残らずに消えた時、その時になって彼らは、今まで魔女や化け物と蔑んできた少女のことを『白蘭の聖女』と呼ぶようになった。
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