5 / 14
棘が刺さる
しおりを挟む最初は、ふとした瞬間の違和感だった。
ディオラルドと目が合う瞬間が減ったように感じた事が、始まりだったように思う。
一緒にいる時間は毎月四回のお茶会でずっと変わりないのに、ユリアーナと微笑みをかわし見つめ合いながら、とめどなく色々な事を語り合う時間が、大切にしていた愛を育む時間が少なくなった。
正確には、以前のように柔らかい笑みを浮かべながら二人は会話を交わしていたけれど、そこにはもう一人の声が足された。それは、アゼリアのものだった。
「ディオ義兄様、好きな食べ物は何ですか?」
「ディオ義兄様は、この国へと旅行へ行かれたのですか?私、とても興味があるんです!どうでしたか?」
「ディオ義兄様は剣もお馬もお上手なんですね!すごい!」
「ディオ義兄様は冬がお好きなんですか?私は春が好きです!でも冬も好きです!」
「このようなお菓子は初めて見ました!私にもくださるんですか?ディオ義兄様、ありがとうございます!」
「ディオ義兄様は難しい事も知っていらっしゃるんですね!尊敬します!」
「ディオ義兄様…ディオ義兄様…」
それらの事は、幼い頃からユリアーナがディオラルドと会話を交わし、全て知りえている彼の情報で。彼女にとっては、目新しく無い会話で。
けれど、彼の話を聞くアゼリアはいつも目を輝かせていて。それは、話を聞かせる側のディオラルドも同じだった。
何時の頃からか、ユリアーナはそのお茶会が誰の為のものであるのか分からなくなっていた。
本来は、婚約者同士であるユリアーナとディオラルドが絆を深める為のもの。そうであったはずなのに。
何時の間にか、それはアゼリアとディオラルドが向かい合い楽しそうに会話をしているのを、横でそっと微笑みながらたまに相槌を打つ時間に変わってしまった。
ディオラルドがユリアーナに笑いかけた後、その微笑みよりもさらに優しくアゼリアに話しかける度、小さな棘がユリアーナの胸の奥深くに刺さる。
彼女自身ですら触れない場所にあまりにもはっきりと感じるその初めての痛みに、ユリアーナは戸惑った。
それが所謂嫉妬なのだと、その時初めて理解した。
それ以上、彼らが会話するのを見聞きしたくない。そう思いながらも、婚約者であるディオラルドにも、自分よりも幼い義妹にも何と言葉をかければいいのか分からなかった。
彼らは純粋に会話を楽しんでいるだけだったし、気にする事はないと何度も自分に言い聞かせる。
父も母も、アゼリアがディオラルドとユリアーナのお茶会に参加している事に対して、何も言ってこない。三つも年下の妹がユリアーナよりもさらに二つ歳上のディオラルドを兄様と慕っている姿を見ていれば、何を言うことがあるだろうか。
『小さなことで心を波立たせてはいけません。いつも平穏でありなさい。悪い事を考えるのではなく、その先を読んでより良い未来を選びとる権利が貴女にはあります。
もしも、困難に直面してしまった時には一度深呼吸をして、胸に手を当て考えて見てください。きっと、貴女であれば改善策をみつけられるでしょう』
家庭教師のシモンヌ先生はいつもそうやってユリアーナの心の情緒を安定させるようにと言った。少女自身もそうしたいと思っていたのだ。
それなのに。
2,381
お気に入りに追加
4,862
あなたにおすすめの小説

私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。



結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる