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聖女だった者
しおりを挟む私は産まれた時分より王家の姫と傅かれ、大切にされ何不自由なく育てられたの。
母は平民の生まれだったけれど、私が生まれる前に流行病を収束させるという大業を成し遂げた人だったわ。お母様は私を産んだ後、儚くなってしまったけれどそれで良かったと思うの。だっていつも泣いていたから。「身分不相応です。私を平民にお戻し下さい」と。馬鹿みたい。こんな良い生活を捨てて平民に戻りたいだなんて。
でも、駄目なのよ。王族だけでは聖女を産めないの。王族に聖女を創る為には血の交わったことの無い貴族や平民と事を成さないと生まれてこないのだって。
どうして、王族は聖女を産めないのかしら?私も産めないと言うことでしょう?
神様の采配とか言われているけれど、でも本当にそうなのかしら?
最初はそんな好奇心だった。
私にはずっと気になる人がいたの。お兄様。三つ年上のアンドリュー兄様はこの国の第二王子で優しい人だったわ。
王家の色を纏い、その瞳には「王家の痣」を持って生まれた美しいお兄様。血は繋がっていても持つ色は違っていて、あまりにも素敵だから、恋をしようと思えば簡単に出来てしまったの。
愛の言葉を囁き身体に触れても、アンドリューはそれを家族の戯れだとずっと思っていた。アゼリアは本当に僕のことが好きだね、と笑っていたわ。
「僕のお姫様」
「君より美しい女性はいない」
「一生愛することを誓うよ」
自分に向けられるそんな言葉が全て、家族愛と解って、私は彼への恋で心がいっぱいになっていたから、とても腹立たしかった。傷つけることも厭わないと考えてしまうほどに。お兄様、いいえ、アンドリューが悪いのよ。
ある夜、アンドリューに媚薬を盛った。彼の部屋へと赴き自分を襲わせ、そしてその一晩の行為で上手く子どもができた。そこまでは良かったのに。
何故、私はこんな所に閉じ込められているの?あんなに痛い思いをして子どもを産んだのに、何故こんな粗末な場所に置かれているの?汚い床、汚い壁。侍女のひとりも居ないのよ。どうやって服を着たらいいの?身体を洗えばいいの?あるのは鉄の扉と、そこに空く細い横長の穴くらい。そこから食べ物を入れてくれるけどそれだけ。声を掛けても返事もしないの。無礼だわ、信じられない。
アンドリューは何時迎えにくるの?
ああ、子どもがうるさいわ、何でこんなに大声で泣くのよ。きらい、嫌い大嫌い。でも駄目、居なくなったらアンドリューがきっと迎えに来てくれなくなってしまう。
ああ、私に似た子ども。アンドリューの子ども。聖女の力があるかないかなんてもうどうでもいい。
私のことを生涯愛すると言ってくれていたでしょう?
なんで、なんでなんでなんで。
酷い。嘘をつくのね?それともこの子どもがいるからアンドリューは迎えに来ないの?
ああ、ここは嫌。だれか。
だれか。たすけて。
ねえ。
あら?
こどもがいなくなった わ
うるさくない
これで、あんどりゅー、むかえにきてくれる?
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