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 それからも、ヴァンはずっとティアリーネを大切に扱ってくれた。
 表情も言葉もまだ拙い少女に怒鳴ったり怒ったりすることも無く、紳士的に穏やかに、態度を変えることなく接してくれた。


 あの日、ティアリーネに無礼な態度を取ったセロ・アレナトゥア侯爵令息に対して、強く怒りを向けたのも珍しいと思った程に、少女の前ではただただ美しく平静な兄だ。



 ティアリーネの人間不信は、完全に治った訳では無い。
 ヴァンを筆頭に公爵家の人々の献身的な優しさのおかげで、改善したのは確かな事だが、今でもまだあの日々を夢に見るのだから。
 悪夢は、ティアリーネの中で死ぬまで永遠に続いていくのかもしれない。



 引き取られた先が公爵家であった事は勿論だが、「大丈夫」と言って抱き締めてくれる人が居たことはティアリーネの最大の幸運だった。
 引き取られた後も、腫れ物を扱うように置いておかれるだけであれば、きっと今もまだ自分の中に閉じこもったままだっただろう。

 公爵家を出て将来的には嫁がなければ、と自分の役目についてティアリーネはずっと考えていたが、父や兄は最初からそうさせる気はなかったらしい。

 不名誉な『偽聖女』と呼ばれた者の子であっても、聖女の産んだ娘には違いなく。そして極めつけ、彼女は非公式なだけで純血の王族であり、ティアリーネの産んだ子どもにも『王家の痣』が発現する可能性が高い為、外に出す事は元々難しいのではないかと考えられていた。


 セロ・アレナトゥアに関しては同じ王族派の貴族からの打診で、もしもティアリーネが気に入ればと考えて顔合わせがあった。
 が、結果的に侯爵家が少女に対して良い印象を持っていないという事が顕になっただけだった。

 父に、ヴァンの前では婚約の話はしないようにと言われていたのは、ティアリーネの婚約者には自分がなりたいとずっと言っていたからなのだそうだ。


 その言葉にティアリーネが驚くと、


「僕以外の人に嫁ぎたかった?」


 と、ヴァンは拗ねてみせる。


「そうでは無いですが…。兄妹では結婚は出来ないと思っていましたので」
「血は繋がっていないからね。最初から、時期が来たらティアリーネは別の家の子になってもらって僕がお嫁さんに貰う予定だったんだ」


 と、にっこりと微笑まれた。



 姉のレイラミアがいつか呆れたように、「ヴァン。昔から貴方はティアに執着していたわよね。わたくしがティアと一緒に遊んでいると、笑顔のまま不機嫌になって、自分の方にティアを無理やり引き寄せていたもの」と言うのを聞いて、ティアリーネは彼の隣で白を頬を薔薇色に染めた。







 

 



 
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