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21(終)
しおりを挟む「本当に、私で良かったのですか?ヴァンお兄様」
「『お兄様』はもう止めて欲しいなあ。君が良かったんだよ、ティア」
「…そう、ですね。ヴァン様」
華やかな新郎姿のヴァンは、穏やかに微笑んでそう言った。
銀色の髪の襟足を水色のリボンで結び、白金色の襟の付いた白のフロッグコートのネクタイとポケットチーフも、光沢のある水色で纏めている。昼下がりの柔らかな光が彼の上へと零れ落ち、銀色の髪がキラキラと輝いてまるでその姿は天使のようだった。
フィラメスティア公爵家の養子となったティアリーネは、マスティマリエ公爵家の嫡男ヴァンの婚約者となった一週間後に、まるで横槍が入るのを防ぐかのように結婚式を行った。
他の貴族へはまた別の機会に夜会を開き、その際にお披露目することが決まってきた。
参列者はフィラメスティア公爵家当主と妻、そしてマスティマリエ公爵家の面々のみで、養子となり初めて会った両親に少女は感慨も何も無かったが、この結婚は両家の結び付きに置いて大切な物だということを改めて実感した。
「…私、幸せですね」
「幸せなら良かった。僕も幸せだよ」
「…あの人は、私の幸せなど望まないかもしれませんが」
「ティア」
海よりも深い青の瞳が、ティアを覗き込んだ。柔らかい、優しい微笑みを湛え愛おしそうに彼女を見つめる。一瞬咎められたと思ったティアリーネは首を少しすくめたが、見つめ返したその瞳の中に美しいウェディング姿のティアリーネが小さく映っているのを目に留めて、ふと笑を浮かべた。
明るい銀色のオフショルダーのマーメイドドレスは、裾にいくにつれて深い青のグラデーションとなっていて、彼女が動く度に腰に付いた大きな青いサテンのリボンが揺れる。ティアリーネの髪を結い上げるのは、こちらもまたヴァンの青色だ。
「君の幸せは、僕もレイラミアも父も、君の侍女も騎士も、皆が思っているよ。
君が笑ってくれると嬉しい。
君が、本を読み目を輝かせているのを見ると愛おしい。
君が、美味しそうに食事をしているのを見ると安心する。
君が安心して眠っていると、僕も穏やかに眠れる。
君が、僕の呼ぶ声に振り向いてくれるだけで、僕は胸がいっぱいになるほど幸せなんだ。」
「ヴァン様…」
その言葉に、ティアリーネの水色の瞳に透明な涙が浮かび上がる。向かい合い、抱き寄せられて鼓動が早くなるのを感じながら、少女はその言葉を聞き逃さないようにじっとヴァンを見つめた。
「ティアを産んだ人は、君の母にはなれなかった。僕はティアを傷つけたその人を、きっと生涯許す事は無いだろう。でもね」
「…はい」
「ティアの片隅に今も存在するその人を、完全に消すことは出来ないかもしれないけれど。
これからたくさんもっと幸せにするから。幸せでその人がいる場所をいつかは覆って見えなくしてしまいたいと思う」
「はい…」
「大丈夫だよ。僕がずっとそばにいる」
「はいっ」
「大好きだよ、ティア」
「私も、大好きです。ヴァン」
私が貴女を捨てたわけではないのです。貴女が私を捨てたのです。
貴女が捨てた私は、幸せに生きています。
(終わり)
━━━━━━━━━━★
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました!貴重なお時間、ありがとうございます(*・ω・)*_ _)
また新しく描き溜めているものの連載を始める予定です。次は竜かな?男装かな?それとも、ビンボー女子かな?うふふ。
また読んでいただけると励みになりまーす!
よろしくお願い致します( *´꒳`*)
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