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(サムル伯爵視点)
しおりを挟む結局、ティアリーネに暴言を呈した三人の内、直接ティアリーネに絡んだリディア・サムル伯爵令嬢は退学となった。他の二人は退学にはならなかった筈だが、あの日以降は教室で姿を見かけなかった。けれど学園内では遠くに見かけることもあるので、上の計らいで自分の教室以外の出入りは禁止するなどといった処置が行われたのだろう、とティアリーネは思った。
そもそも、マスティマリエ公爵家が直接退学となったリディアに罰を下した訳では無い。彼女の父親の商売が軌道にならなくなった、ただそれだけの話だ。
もしも彼女が、少しでも自分の家の商売について知っていればそもそもティアリーネに絡もうともしなかっただろうに。
彼女の父親は、先祖が興した家具の事業を赤字にはならない程度に細々と続けてきた。娘と息子が一人ずつ、それぞれ学園に通わせることが出来、夫人はお茶会を定期的に開く事が出来る。ごく一般的な貴族の家庭だった。
しかし、突然とその生活は一変した。
その始まりは、マスティマリエ公爵家より早馬で苦情の手紙が届いた事だ。
「何だこれは」
学園内にて公爵家の令嬢に自分の娘のリディアが暴言を吐いた旨を記されているものだった。
娘と同学年のマスティマリエ令嬢と言えば、例の子どもだと伯爵は見た瞬間に理解した。しかし、何故リディアがそんな事をしたのか分からず、けれど直ちに謝罪を行う為、訪問願いの手紙を送り返した。
娘が帰ってくると、慌てて問い質した。「一体何をしでかしたのだ」と。
すると、娘は頬を膨らませ苛立ちを隠せない表情のまま「だって、あの娘は公爵令嬢じゃないって皆言っていたもの」と言う。
ますます訳が分からず伯爵は混乱した。
「何だそれは?皆とは誰の事を言っている?」
「フィラメスティア様も、パスファー様も!皆よ、皆!なのに私だけなんて酷いわ。たかが養女に本当のことを言ってやっただけじゃない!」
バシッ!
「痛いっ!」
突然、父親に顔を思いっ切り叩かれ、少女は右頬を押えながら父を見て、ひっと上擦った小さな悲鳴を上げた。青筋のたった鬼のような形相でこちらを睨みつける父親と目が合ったからだ。
「伯爵家の令嬢は自分が何を言っているのか分かっていないとこの手紙には書いてあったが、本当にそのようだな」
「お、お父様…」
「何が皆だ!派閥の高位貴族に使い捨ての駒とされたのだぞ!なんという事だ…この愚か者が!」
「つ、使い捨ての駒…?」
「まだ分からないのか?お前は貴族派閥が王族派閥に楯突いて何処まで許されるのかという指標にされたのだ!」
「ゆ、許される?」
「マスティマリエ公爵家を貶める行為をするなど…余りにも無知が過ぎる。…なんという事だ…」
「でも、皆が…」
「まだ言うか」
未だに口答えをする娘を、伯爵は睨みつけた。
「フィラメスティア公爵家の令嬢やパスファー伯爵家の令嬢にまんまと使われたのだ。あそこは強固な貴族派で、ここ何年も王族派を忌諱しているのはお前も知っているだろう。
マスティマリエ公爵家は、王族派の筆頭だ。その令嬢が同じ学園内にいるのだ。いざこざが起きる可能性は最初から学園で周知されている。だから、クラスも分けられているのだ。
下手をすれば内乱が起きる可能性があるのを知っていて、お互いに表立って争うことは無いというのに。
…フィラメスティア公爵家も伯爵家を駒に使う気は無かっただろう。
恐らく、お前が何時も共にしている子爵家か男爵家の娘を使って威嚇するつもりだった筈だ。
だが、お前はその三人の中で一番愚かで、自分の嫉妬という醜い感情を周りが言っているからというだけのくだらない考えで貴族に有るまじき行為を行った。
マスティマリエ公爵家の令嬢に今まで許されていた、その最後の一線を本人に直接暴言を吐くことで超えてしまった。」
父の言葉を聞いて、漸くリディアは自分が何をしでかしたのかを真実に理解したのだった。
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