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しおりを挟む「ラディア様!お辞めになってください!」
一緒にいた子爵令嬢の方がまだ冷静だったようだ。青い顔をしながら悲鳴のような声を上げてサムル伯爵令嬢を止めようとしている。
男爵令嬢の方は最早辺りを見回して助けを求めていたが、生憎遠巻きに見ている生徒はいれど、近寄ろうとする者はいない。それはそうだろう、相手はこの国の最高位の高位貴族の娘だ。出来れば関わりたくない、関わるのであれば胡麻を擦りたいと思うのが従来の考えの筈だが。
どうやら目の前の少女はその考え方は毛頭にないようで、鼻息荒く言葉を続けてしまった。
「いいから言わせて!
いつも気に入らなかったのよ、何よその澄ました顔!ちょっと顔が綺麗だからっていい気になって。
偽聖女の娘なんて、この学園にいるべきでは無いのに!」
(ああ、またなのね)
その言葉に、似たような言葉をつい最近別の相手に伝えたことがあるとティアリーネは思いながらも。
極めて冷静に、父に教わった通りに返答した。
「そう。それがサムル伯爵家の総意なのですね?」
「え?」
「それでは、我が公爵家よりわたくしに対しての暴言に関して抗議文を送らせて頂きますね」
「はあ?何を…」
「貴女がわたくしに吐いた言葉、全て記録したものを送らせて頂きます。サムル伯爵にお伝えくださいな」
「ちょっと!何故お父様にそんなこと」
「貴女、まさか本当に何も分かっていらっしゃらないのですか?」
その時になってティアリーネの水色の瞳に怒りの色が宿っていることにやっと気がついたのだろう。ハッとしたように、三人はティアリーネの顔を見た。
美しいその瞳は静かに、けれど鋭い光を帯び、瞳孔に浮かび上がる金色の花弁がはっきりと目視できる程だった。その目に三人の内の一人、子爵令嬢は何かを勘づいたのだろう。はっきりと息を飲んだ。
「わたくしを貶める言葉は、公爵家を貶めることと同じことです。わたくしに対する暴言は、マスティマリエ公爵家への敵対行為と見なします」
「……」
「ティアリーネ・マスティマリエは貴女方の行いを処します」
その言葉で、まるで上から水を浴びせたかのようにサムル伯爵令嬢が一瞬で真っ青になるのを見て、ティアリーネは固まっていた他の少女二人にも視線を投げた。
「無論、そちらのおふたりのご自宅にも」
その言葉のみで、子爵令嬢が地べたに座り込み、男爵令嬢はふらり、と木に寄りかかった。
「それでは、ごきげんよう」
そう言うと、ティアリーネは授業に遅れないように早歩きでその場を後にした。
マスティマリエ公爵家に引き取られていなければ、彼女達に立ち向かう事は出来なかっただろう。でも公爵家に居なければ、あの様なやっかみを受けることも無かったのかも知れない。
ティアリーネは家の名に大いに助けられている事に感謝をしながらも、複雑な気持ちで少しだけ溜息をついたのだった。
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