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(ヴァン・マスティマリエ視点)3
しおりを挟むそれから、ヴァンは真実毎日ティアリーネの元へと通った。姉のレイラミアはそんな弟に吃驚したようだったが、彼女は彼女で弟は別の時間に可愛らしいものや良い匂いのするもの、そして美味しいお菓子など持って少女の元を訪れていたようだ。
「ティア。調子はどうだい?」
固形の食物が少しづつ食べられるようになり、頬がふっくらしてくると、妹はとても美しい少女であることに彼はいち早く気がついた。
短く切られた髪の色が本当はピンク色に近い白金髪で、柔らかいこと。
透き通ったおおきな水色の瞳には、目立たないが金色の花弁のような痣があること。
傷だらけの肌が、本来は白く透き通った美しいものであること。
治るのにはまだまだ時間がかかるが、背中やお腹に付いている大きな傷以外は綺麗に治療できるだろうというのが、公爵家のお抱え医師の見解だ。
ただ、心については見えている傷のように塗り薬や貼り薬では治すことが出来ない。
ティアリーネは、公爵家にやって来てから半年経つもまだ一言も言葉を発していなかった。専門医が確認すると、声帯に問題がある訳では無いという。ただ、言葉には反応するようになり、家族や医師の問いかけには頷いたり首振ったり出来るようになってきた。
マスティマリエ公爵家は、医者の診断の下にティアリーネにカモミールやラベンダーのようなストレスを緩和させるお茶を飲ませたり、肉や魚、野菜などバランスの良い食事をとらせるように心がけた。
その内、額や頬の傷が消え頬がふっくらとしてくると公爵家の一同含め、治療に関わっている誰もが少女が癒えてきていると考え始めていた。
しかし、毎日彼女の顔を見に部屋へと訪れるヴァンは知っていた。時々、朝に目が赤く腫れてしまっていることを。侍女に確認をすると夜中に夢を見て魘されている事があるという。
少年が疑問を感じたのはその頃だ。
彼女は本当に、記憶を失っているのだろうか、と。夢で見ているだけならまだマシかもしれない。侍女の話では、朝起きた時は、ティアリーネは目は赤いが特に怯えた様子などは無いと言うから忘れているのだと思われる。
けれどもしも、彼女が何か以前の記憶を覚えているというなら。
それは正しく悪夢ではないのか。
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