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(ヴァン・マスティマリエ視点)2
しおりを挟む「…あんなに傷付いた子どもを見るのは初めてで」
「それは、そうだろうな」
「その、事情を何も知らないのに、あの子を傷つける可能性があることを言いました」
「…本人には言っていないだろう?」
「そうですが。…良くないことだと思いました。なので、優しくしたいと思ったのです。妹に会うことは出来ますでしょうか?」
ヴァンは素直に思っていたことを父に伝えた。黙って少年の話を聞いていた公爵はふ、と笑みを零すと、しかし複雑な表情をした。
「お前は優しい子だな。妹に会うことは許そう。
…しかし、あの子は心が壊れてしまっている。お前が仮に話しかけたとしても、返事があることは期待でき無いだろう。それでも平静に接することが出来るか?」
「はい。僕は返事がなくとも視線が合わずとも、そして微笑まれなくても。必ずずっと変わらぬ態度で妹と接します」
ヴァンの決意の固まった眼を見て、公爵は「分かった」と一言返し、大きく頷いた。
その次の週より、ヴァンの望み通りティアリーネに会うことができるようになった。
少女が公爵家へとやって来て二週間。たった僅かの期間のようだが、初めてヴァンがティアリーネを見た時よりも彼女には大きな変化があった。
くすんだ灰色のような、少し赤みがかった不思議な色合いの髪は、傷み過ぎていたのだろう。襟元でバッサリと切られ少年の髪型のように短くなっていた。
前居た場所では殆ど何も口にしていなかったせいのか、やって来た時には固形のものが食べられなかった小さな少女はまだこの数日では全く栄養が足りておらず、髪の毛が切れやすく縺れやすいので切らせて頂きました、と申し訳無さそうに侍女が言っていた。
食事を食べさせる為に、目の前にフォークやナイフを準備すると、それを見たティアリーネが酷く怯えて発作を起こす為、しょうがなく器から直接口を付けての食事となっているのだと言う。それでもまずは口に入れられれば良いと、父は言っているらしい。ヴァンも、食べられないよりはマシだと思った。
「初めまして、ティアリーネ。僕はヴァン。君のお兄さまだよ。」
大きな白いベッドの上にちょこんと座り、大きな水色の瞳で窓の外のどこか遠くを見つめている。けれど、そこには何も映っていない。まるで硝子玉のような大きな目は、ヴァンの方を見ることもなく、声も聞こえているのか分からなかった。痛ましそうにティアリーネを見つめたヴァンは、そっとその枯れ枝のような小さな手をとった。その手は、とても冷たくて力を入れれば折れてしまいそうな程に細かった。
ヴァンは、その可憐とも呼ばれる顏を綻ばせながら優しく少女に話しかけた。
「ティア、と呼んでもいいかな?僕のことはヴァンお兄さまと呼んでくれたら嬉しい。
僕、妹が出来てとても嬉しいんだ。だから君に毎日会いに来るよ」
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