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しおりを挟むティアリーネは、自分が普通の養子では無いことを理解している。
けれどマスティマリエの家族は少女に対して、養子である事は伝えていても彼女の出生を詳しく教えてくれてはいない。まるで、どうでも良い事というように。
なので彼女の元へと入ってくる情報は、いつも家族以外の他者か、書物によるものだった。
第一に彼女の持つ血が、厄介だということを少女は知っていた。
ティアリーネは、今から十五年前に存在していたある男の娘だ。
アンドリュー第二王子。この国の即妃の第一子であったその男は、幼き頃より決まっていた婚約者を裏切りアゼレアという名の平民と不義を交した。そしてできてしまった子供がティアリーネだった。
不義の子とは言え、王家の血筋を受継ぐ者となってしまったのだ。
アンドリュー王子は、王家系図によるとティアリーネが産まれた頃に流行病で儚くなっている。恐らく、幽閉されているか毒杯を賜ったかどちらかだろうと少女は考えた。
父親が王家の者だというのは秘匿されているが、ティアリーネの母親が『聖女』だったという、記録は残っている。
何故ティアリーネが、父親の事を知っているのか。それは、彼女に記憶があるからだ。
少女がマスティマリエ公爵家に引き取られたのは四つの頃。
引き取られた当初、ティアリーネは産まれてからそこまでの記憶を全て失っていた。今現在も周りには失われたままだと思われているその記憶。
引き取られ、この屋敷へとやってきた後も怖い夢はずっと見ていた。しかし、それは起きたら消えてしまうので、幼いティアリーネは内容を全く覚えていなかった。そのまま忘れたままでよかったのに、と今となっては思う。
それを少女が再び思い出したのは、五つの時で、今から九年前のことだ。
きっかけはとても些細な事。
それは、鏡に映る自分の姿にふと疑問を持ったことだった。
その日、ティアリーネはいつものように一人部屋の中で本を読んでいた。風が吹き、カーテンが揺れて集中力が切れた時、ふと目に入った鏡の向こう側。
肩先まで伸び、緩くカールした薄くピンクがかった髪の色と、底の浅い海ように明るい水色の目の色。何時もは気にしない、両親や兄姉とは明らかに色味の違う自分の髪や瞳の色を何故だろう、と不思議に思いながら何気なく見ていた時に、頭の中で声が響いたのだ。
『お前なんか産むんじゃなかった』
と。
その時脳裏に響いた声に、ドクンと心臓が不安に大きく鳴り、息が止まりそうになった。冷や汗が額に滲み指先が震えた。手に持っていた本が、パタンと音を立てて足の長い絨毯の上へと吸い込まれる。
刹那、少女ははっきりと思い出したのだ。
薄暗く散乱し汚れた部屋の中、自分を恨みがましく見つめていたティアリーネと同じ色の目を。
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