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しおりを挟む「まあ、見て皆様。偽物が歩いていらっしゃるわ」
「まあ本当。よくあんな平気な顔で歩けますこと。わたくしでしたら恥ずかしくて領地から出られないわ」
「偽物ってなんですの?」
「あら貴女ご存知ないの?マスティマリエ公爵家に一人養子が紛れていることを」
「…でも養子なんて、世間的にはよくある話では?」
「ただの養子ならばねえ…」
「ねえ、そうよね」
(本当に。私がただの養子であったなら、どんなに良かったことか)
自分の席のすぐ近くでティアリーネを薄ら笑った少女は、伯爵家の者だった。
別のクラスに籍を置いている筈のその者達は、何故か何日かに一回、ティアリーネのいるクラスへとやって来て、こちらに話しかけるでもなくこそこそと教室の入り口で話をしているのだ。
そのそばにいて話を聞いているのは、子爵家と男爵家の少女達。本来であれば、公爵家の娘であるティアリーネの方が立場は上なのだが。
どうやら彼女たちの中では、ティアリーネはマスティマリエ公爵家の娘という定義ではなく、ただの異質なものとして捉えられているようだった。
それは学園に入学した当初からずっと。ティアリーネの類稀なる美貌も少女達からすれば羨望、または嫉妬の素となるからなのか、友達もいない。
友達のように振る舞う者はいるけれど。
「ティアリーネ様。宜しいのですか?身分の低い者に先程のような発言を許したままで」
「本当ですよ。あの子はフィラメスティア公爵家の眷属ですが、あまりにも無作法すぎます。わざわざ、クラスにまで押しかけてきてこのような無礼を行うなんて」
「…何かおっしゃられておりましたか?」
「聞こえてらっしゃらなかったのですか?もう、本当にティアリーネ様は何時もぼーっとしていらっしゃるから。そんなだから目下の者になめられるのです!」
「そうです、もっとしっかりして下さいませんとわたくし共も支えきれませんわ」
自分を咎める声をかけてくるのは、侯爵家、伯爵家、そして子爵家の子女達だ。
(あちらは貴族派であるフィラメスティア公爵家がついていて、こちらは王族派だからこうやって事あるごとに衝突してしまうんだろうけれど、両方共に言い方がストレート過ぎて無作法ね…)
高位貴族は相手を牽制する場合であっても常に優雅に振る舞うことを求められている。感情的になれば、言質を取られあっと言う間に足元を掬われるような世界だ。その事に自身で気が付かなければ将来的に自分の首を絞めることになるのに、とティアリーネは少女達の行動については思っていた。学園にいるうちは許されることも多いだけだと言うことを自覚していれば、このような些細な争いは起きないだろう。
けれどそれを指摘する義理は、ティアリーネにはない。
また、ティアリーネの価値を分かっている振りをしながらも上から目線でものを言ってくる者達にも、何も教えるつもりはなかった。
(無知というのは罪なことだわ。…私の存在も罪のようなものだけれど)
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