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しおりを挟む「ねえ、聞きました?マスティマリエ公爵家の…」
「ええ、政略的なお話の件でしょう?」
「王族派と貴族派の橋渡し的な役割でしたでしょう?対外的に国内の力が結束している事を示す為だとか」
「でも、それも外向きな理由なのだとか」
「え?どのような理由がほかにあるんですの?」
「そこ迄よ」
「!!」
凛としたその声に、廊下で話し込んでいた少女達はびくりと身を竦めた。
恐る恐る後ろを振り返ると、アリア・フィラメスティア公爵令嬢とそのお付きの侍女であるアイリス・パスファー伯爵令嬢の姿がそこにあった。
艶やかな黒髪、薔薇色の瞳の妖艶な美女であるアリアは「貴女方」と少女達に話し掛けた。
「公にされている以外の事を噂でも囀るのはおやめなさい。
余計な事を言って何処かの公爵家に目をつけられ、誰かのように修道院へと送られるのも嫌でしょう?」
「……」
アリアの言葉に、少女達は顔色を悪くしたまま大きく首を縦に振った。
「解ったならお行きなさい」
そう言われて、慌てたように頭を下げると蟻の子を散らすようにパタパタとそこから去っていった。
「アリア様。見つける度にご注意されるのですか?」
「まさか。一度目をつけられたと分かったら早々口に出すものも居なくなるでしょう?」
アリアの後ろに控えていたアイリスの言葉に、少女は肩を竦めた。そして、大きなため息をつく。
「流石に、今回の件は私達が発端でしょうからね」
「罪の償いということですの?」
「…そうね。あの子があんなに短絡的な事をすると読めなかった私が悪かったわ」
ラディア・サムルが、ティアリーネ・マスティマリエに直接的な言葉で攻撃を仕掛けた件に関して、フィラメスティア公爵家の後継であるアリアは状況の認識不足だったことを悔いていた。
確かに王族派の中でも筆頭公爵家の娘であるティアリーネに対して、アリア達貴族派は慇懃無礼な態度をとっていた。しかしこれは、お互いを牽制してのこと。相互で近づかないようにとある意味では気を使っての事だったというのに。
何故か、取り巻きが心得違いにて暴走した。
「ある意味、貴族向きでは無いことが分かって良かったのではないかしら?」
「…確かに。どうやら彼女はマスティマリエ公爵令嬢の出自に関して、個人的に貶めても問題ないと思っていたようですし」
「出自?…私が生まれは貴族では無いと言ったことで?」
「その様ですよ」
「…本当に短絡的ね。貴族でなかったら平民だと思ったということでしょう?」
「ええ」
「平民だったら平民だと言うわよ。私は」
「ええ、アイリスは存じております。サムル伯爵令嬢は分からなかったのです。それだけの事です」
アリアは再び溜息をついた。
「今回の事がなければ、王族派と貴族派の結び付きの為、養子まで用意してマスティマリエ公爵令息へと嫁ぐ準備もあったというのに。人生とはままならないものね。」
「そこを逆手に取られましたものね、アリア様」
「そうね。まさか、ティアリーネ様をわたくしの家の養女にするなんて、思わないじゃない。私の妹として、マスティマリエ公爵家に嫁いだことにするなんて」
「相手が一枚上手でしたわね」
「腹立たしいわ、本当に」
そう言いながらも、アリアは微笑んでいた。
それもそのはず、彼女が自ら自分の代わりを務める養子にと選んだ男はアリアがずっと幼い頃より恋い焦がれていた想い人であったからだ。領地から呼び寄せた男は、そのままアリアの婚約者としてこちらに残ることになった。
事態は周り巡って、丸く収まったのだった。
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