竜の箱庭(短編集)

須木 水夏

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 僕が君に会ったのは、偶然だったのか必然だったのか。

 今となっては、僕には、分からない。






 初めて出逢った日。柔らかな陽の光の中ではにかみ、こちらを見た少女に、その時アレクセイという名前だった少年は一目惚れした。

 いつ隣国が起こした戦争に巻き込まれてしまうのか、小国に住むアレクセイや家族、周りの人々はいつも気が気では無い生活を送っていた。そんな中で、見つけた小さな恋。

 少女の名前はマリーアンヌと言った。花のように可憐な彼女に、アレクセイは自分の良いところを必死でアピールし、政略結婚であったが、お互いに相手をきちんと想いあって結婚の約束までしたのだ。

 そう、したのに。





 戦争がアレクセイ達の生活を襲った。忽ち瓦礫の山と化した世界の中、必死に逃げて、どうにか隠れ果せて。
 爆撃に脅えながらの地下の防空壕での生活。家族の死を目の当たりにし、心をすり減らしたマリーアンヌと僕は、それでも自分達の明日をも知れぬ状況下で身を寄せあって必死に生きた。

 けれど、それは直ぐに終わりを迎えた。

 マリーアンヌが死んだからだ。



 アレクセイが水を探しに行っていた間に起きた事だった。投下された爆弾がマリーアンヌが避難していた場所を直撃した事によるものだった。




『直ぐに帰ってくるよ。』

『ずっとお待ちしております。』




 それが、最期に彼女と交した言葉だった。

 それから、僕も死んだ。






 次に目覚めた時、その世界には。ずっと探していた。でも見つけられなかった。
 僕はその世界で、一つの過去の話を聞いた。小国が大国に攻め入られて滅んだ話だ。
 それはもう百年も昔の話だったが、『歌』として存在していた。その時の小国の王が国や民を捨て戦禍から逃れ、残された民が自分達の家族や恋人を亡くしたこと、そして国が滅ぶことを嘆き悲しんだという歌詞だった。

 その歌を知った後、僕は死んだ。






 次に生まれ変わった時、家族同士の交流の場で僕はまた、に出逢えた。
 僕はアローという名前で、彼女はサーシャという名前だった。
 出会った瞬間に解った。向こうも僕だと解っていた。彼女が『逢いたかった』と初めて会った時に言ってくれたから、それが解ったんだ。

 辺境の森で、二人で一緒に馬に乗り野を駆け回った。食事や勉学を共にし、将来的には婚約をすることが決まっていた。言葉にしなくても、伝えなくても彼女と想い合っていた。とても幸せだった。


 けれど、また戦が起こった。
 辺境の地は忽ち火の海と化した。敵に囲まれ、逃げ場のないの中で、父は母と兄を剣で刺した後、私と彼女を刺した。恐らく、敵に蹂躙されるくらいならば、という判断だったのだろう。
 その時、私達はまだ十代になったばかりの子どもだった。私達は手を繋いだまま、その想いを伝えられずに死んでしまった。





 四度目に生まれ変わった時、僕はまた彼女を探そうとして。

 止めた。


 彼女が死んでしまう理由に、気がついてしまったから。













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