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小さな手
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しおりを挟む「わ、私がレ、レオン様の事を好いてると…?」
「だってそうじゃない?」
サーシャはじっとディアの瞳を見つめる。
「ディア、貴方。幼い頃に会った時、婚約者殿に一目惚れしたのでしょう?」
「そ、そんなこと…」
「だってディア。貴女は今だって婚約者殿の色をつけているわよ?」
呼吸をとめて顔を真っ赤にしたまま、ディアは知らず知らずのうちに髪のサイドに編み込んだ青色の光沢のあるリボンに触っていた。
それは、ディアが自ら選び身につけた物で。
「…嫌いだったら、他の女性と親しくしている所を見ても泣いたりしないわよ?」
「泣いて…なんか」
「泣いてたわよ。あんな人有り得ないって言って怒りながら。あの夜会の日、すぐ近くにわたくしも居たでしょう?…あらやだ、泣かないでよ。」
ポロリ、とディアの目から透明な雫がこぼれ落ち、それに気がついたサーシャは困ったように眉尻を下げた。
「貴女があんまり傷ついているものだから言わないようにしていたけれど。ディア、あなたはレオン様に恋してるのね」
「してないわ…」
「そうかしら?
容姿を貶されて傷つくのは当たり前よね?それは分かるんだけど。
でもわたくしだったらいくら家同士の付き合いとは言え、月に四度もお茶会を開こうなんて思わないわよ。会いたかったんでしょう?
会う度に、相手の色をきちんと身につけて、髪も爪も服も、目いっぱい可愛くしてなんて、好きじゃなきゃ出来ないわ。」
ボロボロと涙を零し続けるディアの頬にサーシャはそっとハンカチを当てた。
「十二年恋をし続けているのよ、ディア」
「…でも、もう無理だわ。だって、私、この前ひ、酷いことを言ってしまったもの…」
「いやいや、長い間よく我慢したものよ?わたくしも貴女の根性を見習うべきね」
ヒックヒックと泣き声をあげるディアに、サーシャは慰めの言葉をかけた。それは彼女の本心だ。
ディアは、サーシャが出会った頃からずっとレオンに恋をしていた。彼女と話していると、よく話題に上がってくるディアの婚約者。
また嫌な事を言われたと落ち込む少女に、青と金色は自分には似合わないのか?と不安げに聞いてくるその顔に、容姿を少しでも磨こうと努力する姿に、見知らぬ女と親しくしていたと言って諦めたような表情に。
どのディアも確実に彼に恋をしていたけれど、それを恋だと思っていない節があった。
相手に認めて貰えない悲しさを、相手の事が嫌いだという風に自分の中で変換してしまったから。
「ディアに甘えていること、婚約者殿も気がついてるはずなのに…。お子様よねえ…」
「お子様…」
「そうよ。婚約者殿は子どもなのよ。
今の貴女を見て、ブスなんていう男はその人くらいでしょう?貴女、社交界で『真珠姫』なんて愛称で呼ばれるくらい美しいのに。」
ディアはこの国ではさして珍しくもなく地味な色をしている。されど、薄茶色の髪は水のように艶やかに流れ、大きな瞳は夢を見ているように光がキラキラと滲む。
透き通るような白い肌に頬や指先は甘く色づき、丁寧に磨かれた宝石のような柔らかな美しさは、周りの羨望を集めるほどとなっているというのに。
まだ、足りないと言われる。
「…好きな人に認めてもらえないなら、意味なんてないのよ」
「素直になれていないだけな気がするのよねえ…」
「素直って?」
「あれよ。過去に言ってしまったことを、よっぽどの事がない限り取り消せないないのよ。要らないプライドが邪魔をして」
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