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今更だとまた言われた【ロメオ視点】
しおりを挟むロメオは、一瞬動きを止め。そして、恐る恐るというように左右を見渡した。まるで木々がざわめくかの如く、周りからは色んな囁き声が聞こえてきていた。
ーー聞きまして?他の女は遊びだったのだから拗ねるのはよせ、ですって
ーーありえないわ
ーー最低
ーーあいつの言っている言葉の意味が分かるか?同じ男として情けなくなるな
ーー気持ち悪い方でしたのね…顔だけで悪い部分を補っていたのかしら?
ーー顔が良いと思うのか?あの男の?どう見ても自己中心的な男の顔だろ
ーーそうね、醜い顔だわ
「なっ!私は醜くなんかない!!」
言いながら声がした方を振り返ったロメオは、一人の男と目が合った。
そこに居たのは、美しい侯爵家の夜会会場には不似合いな、ボサボサの艶のない金髪にヨレヨレのシャツを着た男で。ロメオはぎくりとして大きく目を見開き、視線を逸らそうとするも何故だか逸らすことが出来なかった。
(だ、誰だ、あのみっともない男は…)
ロメオの上げた叫び声に更に彼に集まる視線は増し、その居心地の悪さに思わず胸の辺りをさすろうとした時、目の前の男も同じように手を身体の前に上げた。その途端ハッとしたロメオは、ヨロ、と一歩その男へ向けて歩みを進めた。すると男も一歩こちらへと近づいてくる。
(まさか…)
ロメオはフラフラしながらも震える足でその男に近づいて行った。近づけば近づく程、鏡面仕上げの壁に映る男ははっきりとその顔を見せつけてくる。
手入れのされていない髪や肌。眠れない為に目の下に染み付いたように広がる黒いくま。淀み濁った水のように輝きを失った瞳。彼の顔がそこには映っていた。
「そこの者、動くな!」
「!」
バタバタと数名の衛兵の足音が響きわたり、ロメオは囲まれると上半身を拘束されホール外へと連れていかれそうになる。
「さ、触るな!離せっ!」
ロメオは自分の身体の拘束から逃れようと腕や足をばたつかせたが、それもあっという間に押さえ込まれてしまった。そのまま連れていかれようとすると声を掛けられ、衛兵が足を止めた。
「テューダーズ伯爵子息様。」
聞こえてきた子どもの頃から知っている柔らかく知的な響きの声に、彼は縋るように彼女の姿を見つめた。
そしてふと気がつく。メアリーナはあんなに美しかっただろうかと。
何時もよりも入念に化粧をしているせいもあるのだろうが、その顔は幼い頃にみた彼女の母の姿に良く似ていた。ロメオは彼女の母の事は好きだった。美しかったから。
そうだ、彼女が美しいのであれば問題ない。そもそも、メアリーナの顔も含めて好きであれば良かったのだ。今の彼女であれば顔も含めて好きになれるだろう。そう思ったロメオは愛おしそうにメアリーナを見つめると、彼女の言葉の続きを待った。
しかし、彼女の言った言葉はロメオのそんな甘い考えに終止符を打たせた。
「これは貴方が選び取った自業自得の結果のこと。何もかもが今更なのです。二度と、私の婚約者などという世迷言は仰らないで下さいね。」
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