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婚約者

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「!」

「こんな早急な事を言って、貴女を戸惑わせてしまうのは重々分かっているのです…。
 けれど今日、ライオネルに貴女の相手にと誘われた時、私はようやく貴女と言葉を交わせる事を嬉しく思いました。」

「エディオ様…。」

「フルバード伯爵に挨拶に行った時、貴女はまだ他の誰かの婚約者で近づくことも叶いませんでした。
 貴女は私の命の恩人です。貴女の事を尊敬しております。…そして、こんな事を言うと変だと思われるかもしれませんが、貴女があのサンルームで植物に笑いかけ一生懸命世話をしている姿を見て、…一目惚れをしてしまったのです。」

「…!」
 


 エディオの言葉に、メアリーナは驚き目を瞬かせた。植物を見て微笑んでいる女に恋をする…?そんな事普通はありえないと思うのだけれど、と。
 しかし、そろっと見上げてみたエディオは相変わらず柔らかな笑みを浮かべていて、しかも少し頬が赤くなっているように見えた。僅かに見えている深緑色の瞳がその柔和な微笑みとは違い熱を含んでいて。
 本当に…?と思い、メアリーナが何か言わなくてはと口を開こうとした時。


「何をしているんだ!」

「?!」

「私の婚約者から離れろ!」



 後ろから聞こえてきた聞き覚えのある怒鳴り声に、少女は一瞬ビクッと肩を跳ねさせ、そして眉根を寄せてゆっくりと振り返った。
 そこにはしばらく見ていなかったロメオの姿があり、彼は肩を怒らせてこちらへと近づいてきた。周りの人々もなんだなんだというように、こちらに視線を向けてくる。メアリーナは、近づいてくる彼の姿にぎょっとしたように若葉色の瞳を一瞬大きく見開いたが、それを直ぐに持っていた扇子で隠した。



「テューダーズ伯爵子息様、御機嫌よう。」

「メア!何故こんな気味の悪い男に手を握られているんだ!」

「気味の悪い…?」

 エディオは前髪が多少長いだけで気味が悪いとは思わない。むしろ、洗練された高級な服に身を包み動きも落ち着いていて気品があり、生まれも育ちも高位令息という事が周りから見ればはっきりと分かるだろう。今であっても、急に割り込もうとしてきたロメオの行動に、メアリーナの一歩前には出たものの、じっと相手を観察するように冷静に見つめている。
 というか、相手はラルバイン公爵家の三男のご令息だ。彼は自分よりも上位の貴族を怒鳴りつけているのだが分かっているのだろうか?

(分かってなさそうね…。)


「…テューダーズ伯爵子息様。私のことはフルバード伯爵令嬢とお呼びくださいませ。貴方に愛称で呼ばれることは許しておりません。」

「なっ…!」

「それに、ラルバイン公爵令息様に向かって不敬です。」

「えっ?ラ、ラルバイン公爵…?……あ。」


 やっと気がついたらしい。ラルバイン公爵家の証である、深緑色の瞳は長い髪で隠れてしまっていて見えないが、礼服の胸元に付いているブローチにははっきりと金色に輝く家紋が描かれていた。


「だ、だがしかし、君は私のこ、婚約者であるのに他の男と手を繋ぐなんて」

「貴方の婚約者ではありません。何ヶ月も前に破棄されましたでしょう?覚えてらっしゃらないのでしょうか?」

「だ、だからあれは間違いであって…」

「間違いではありません。それに私」


 執拗いロメオに嫌気がさしたメアリーナは、段々と腹が立って来ていた。
 メアリーナのことを可愛くないと言って自分好みの女性と不貞を行ったのは自分なのに。フルバードの後継予定だったのにそれが無くなって慌てているだけの癖に、と。

 もうこうなったら、とメアリーナはエディオの手を引き、その腕に自分の腕を絡めた。


「未来を共に歩むことを考えているエディオ様に変な誤解をして欲しくありませんの。お分かりいただけませんか?」
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