27 / 34
初めまして?
しおりを挟む(嫌な事を思い出してしまったわ…)
どうしても付き纏うロメオとの過去の記憶に、メアリーナは一瞬表情を暗くしたが、エディオの続けられた言葉にそんな記憶も何処かへとすっ飛んでしまった。
「本日はライオネルに呼ばれたのです。『お前は婚約者もいないし暇をしているのだろう、ある令嬢の相手を務めて欲しい』と。」
「…!!す、すみません。」
(な、なんて事なの…まさかそんな数合わせの為に公爵家の子息を誘うなんて。)
ステップを踏みながら青ざめるメアリーナに、エディオは首を横に振ってくれるが、あまりの恐れ多さに少女の肩は小さく震えた。
「恐縮しないでください。メアリーナ嬢が謝ることではありません。
それに、…貴女でなければこの話は最初から受けませんでしたから。」
「え…?それは、どういった意味で…?」
「私は貴女のことを知っていましたから。」
メアリーナはエディオの言葉に新緑色の瞳を瞬かせた。
ふわっと回った時、エディオの長い前髪がなびき吸い込まれそうな深緑色の瞳が見えた時、メアリーナの胸がドキリと大きく鼓動を立てた。
髪の色と同じ濃紺の長いまつ毛が、シャンデリアの光を受けて穏やかな木漏れ日のように光る瞳に影を落とし、その目が真っ直ぐメアリーナを見つめていたからだ。
急に恥ずかしくなった少女は頬を赤くしてパッと視線を逸らした。
「あ、あの、申し訳ございません。何方でお会いしたのか覚えておらず…。」
「それはそうですね。私が一方的に知っているだけなので。」
「そ、そうなのですか…?」
「…五年ほど前に、農作物の育成と土と肥料の関係についてフルバード伯爵に提言していらしたでしょう?」
「…!」
メアリーナは大きく瞳を見開いて、エディオを仰ぎ見た。
五年前、母が肺病でデュセルへと療養へと行ってしまった後、少女は暫くの間は寂しさで塞ぎ込んでいた。
『デュセルは空気も綺麗で食物も栄養たっぷりなんだそうですよ。きっとサラ様も直ぐに良くなってお戻りになられます。』
乳母のアンナの気遣う言葉に、メアリーナは泣き尽くしてぼんやりとした頭がパッと覚めるような気持ちになった。
(栄養のある食べ物…こちらでも作る事が出来たら、お母様と一緒に暮らせるのではないかしら?)
思い立ってからは早く、メアリーナは早速図書館へと通いつめた。元々本を読むのも調べるのも好きだったので苦ではなかった。
(窒素、リン、カリウムが植物に必要な三大栄養素。大気や土に含まれている…過剰でも欠乏しても駄目なのね。国の基準はどうなっているのかしら?
デュセルのように肥沃な土壌の土地でないと、都市部では上手く育たないのかしら。)
王都の近郊で作られている野菜でも新鮮な物は美味しい。けれど栄養面ではどうなのだろう。照射時間や寒暖の差、降水量、そしてそこに食物の栄養を更に上げるために必要なものは。
『土…肥料…』
効能を認められて国に出回っている肥料は、北部の小さな村で作られたものだと最新の農業書には記載されていた。けれど北部と王都では気候がかなり違うはずだ。一種類だけの肥料で良いのだろうか。その土地にあったものが必要なのではないだろうか。
その事に疑問を持ったメアリーナは父に相談した。何故、自分が農作物に興味を持ったのかも正直に話した。
話を聞き終わった父はメアリーナの頭を撫でて、こう言ってくれたのだ。
『君はすごいな。甘えん坊だったのに急に大人になってしまったみたいだ。お母様の事を色々考えてくれてありがとう。研究は私の本分だ。メアの提案の件、私に預けてくれないか?』
609
お気に入りに追加
870
あなたにおすすめの小説

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。
ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。
同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。
しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。
だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。
立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる