好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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初めまして

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「ライオネル、遅くなってすまない。」

「いいよ、丁度もうすぐダンスが始まるところだ。ああ、こちらがメアリーナ・フルバード伯爵令嬢だ。」


 メアリーナのすぐ目の前で立ち止まった人物は、見上げるほど身長が高かった。紺色の燕尾服を着ているが、手足が驚くほど長くてスタイルが良い。
 夜会であるのにわざとなのか上げていないダークブルーの長い前髪の隙間から一瞬だけ見えた森色の瞳が、今はもう見えなくなってしまっている。けれど鼻筋は通っていて唇の形も良く、顔立ちは整っていることは見て分かった。


「…初めまして。フルバード伯爵令嬢。私はエディオ・ラルバインと申します。本日はダンスの相手を務めさせてください。」

「メアリーナ・フルバードと申します…。…あ、あの、大変失礼な事をお聞きしますが、…ラルバイン公爵子息様でいらっしゃいますでしょうか…?」

「ええ、そうです。」


(やっぱりそうなの…?!)


 誰でも知っている、この国の四大公爵家の一つラルバイン公爵家。
 ラルバイン現公爵は国の頭脳と呼ばれる宰相を務めており、たしかエディオの二人いるうちの一人の兄は王太子の側近だったはずだ。もう一人の兄も宰相補佐として王宮に務めていると聞く。つまり、だ。

 メアリーナはその時になってハッと気がついた。自分の周りにいるのは高位貴族ばかりであることに。
 フルバードは伯爵位だが、実情は王家とも血の繋がりがある。母のサラと現女王が親友であったのも、メアリーナの祖母と女王の祖母が従姉妹同士であったからだ。
 なので、幼少期より王族に近しいカレンデュレアやティアラとも友人として過ごして来てはいたが、彼女達も侯爵令嬢。婚約者は公爵家に辺境伯爵家。
 その友達なのだから当たり前に高位貴族なのだと、改めて解ってしまったのだった。


「ラルバイン様、で、でもよろしいのですか?私とダンスなどされて、婚約者の方にご迷惑になったりなど…」

「エディオと呼んでください。私には婚約者はいないので大丈夫です。」

「えっ?」


 目元は見えないが、エディオは形の良い唇を綻ばせて優しく微笑んだ。そして、大きな手を差し出してくる。一瞬躊躇ったが、メアリーナはそっとその手に自分の小さな手を重ねた。嫌な気持ちはしなかった。


「私は三度の飯より研究が好きでして。女性にあまり興味がなく過ごしてきて、三男ですし特に何も言われてこなかったのです。」


 手を引かれてダンスの輪に向かって歩きながら、メアリーナはエディオと話を続ける。ほかの二組は既に雑踏の中に消えていた。


「…あの、ではエディオ様は本日は…」

「私も名前でお呼びしても良いですか?」

「は、はい、もちろんです。」


 向かい合ってワルツの曲に合わせて滑るように踊り始める。真っ直ぐ見ると目線が彼の肩ほどまでしか達さない為、メアリーナはエディオを見上げた。

 エディオのワルツのステップは軽やかでリードもとても上手く、メアリーナは思わず感嘆の息をこぼした。

 メアリーナとの練習ですら嫌そうに怠そうに踊っていたロメオのそれとは違う。ああ、そう言えばデビュタントでは結局彼とは踊らなかったなと思い出す。あの時は急にロメオが居なくなってしまい、そのままダンスが始まってそれっきりなったのだ。
 あの時は知らなかったけれどメアリーナの「顔が可愛くない」と思っていたロメオが一緒に踊るのを拒んで逃げ出し、他の女性の所へ行っていたのだと、今なら分かる。



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