好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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夜会

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 夜会に出席する許しをフルバード伯爵より受け、メアリーナはそれまでの期間を慌ただしく過ごした。持っていたアクセサリーの色やドレスにふとロメオの事を思い出す事もあったが、それをかき消すかのように新しいドレスの仕立てやら靴や小物の準備で大わらわだった。

 新しいドレスは、メアリーナの淡い赤色の髪が映えるように白のAラインで、裾に目線が下がっていくにしたがって、まるで帷が降りていくかのようにレースが重なり合い、ネイビーブルーのグラデーションになっている。そこに金色の刺繍でいくつもの小さなビーズや宝石が散りばめられ、まるで夜空の星々のように輝いていた。
 パブ・スリーブにも同じくグラデーションになったレースが取り付けられ、肘の箇所で波打つように揺れる。
 髪の毛はハーフアップにし、ドレスの色と同じネイビーブルーに金糸の刺繍の入ったリボンで留めた。
 鏡の前でメアリーナがくるん、と一回転するとふわりっと裾が広がり大人っぽいながらも可憐に華やかに見せてくれた。


「随分と気合いが入っているね。」

「…!お父様!」

 
 後ろから声をかけられ振り返ると、満面の笑みのフルバード伯爵がドアの前に立っていた。気恥ずかしくなって少女が俯くと、
「とても美しいね。自慢の娘だよ。」
 と、褒めてくれた。

「ありがとうございます。では、行ってまいります…!」

「ああ、気を付けて。」





 会場まで伯爵家の美しい黒塗りの馬車で移動し、降りたところで友人達と落ち合った。


「まあ!二人とも素敵ね!」

「貴女もとても素敵よ、メア。」

「その色とても似合うわ!」


 カレンデュレアは、婚約者の色である情熱的な赤のクイーンアン・ネックになったマーメイドスタイルのドレスに、黒のアームロングの手袋、黒い羽をあしらった扇を持ち、髪は左側に流して赤い薔薇を模し大ぶりのダイヤモンドの付いた髪留めを付けていた。

 ティアラも婚約者の色である水色のふんわりとしたドレスを纏い、肩から銀糸で編み込まれたショールを掛けている。背中の腰の部分に大きなベルベットリボンが付いていて、そこからドレスの裾まで可憐な長いレースが垂れていた。

 二人とも顔もスタイルも良いので、先程から通り過ぎる男性達がチラチラとこちらを見ていることに、メアリーナは気がついた。


「二人とも、すごく注目を浴びているわ。」

「あら、何を言っているの?貴女が見られているのよ。」

「私?そんな訳ないわよ。」

「もう、本当にメアってば自尊心が低いんだから。」

「そんなことよりも、緊張してきたわ。」

「緊張しないで大丈夫よ。さあ、寒いので中に入りましょう。先にワタクシの両親に挨拶にいらして。」

「ええ。」


 少女達は連れ立ってカレンデュレアの邸の扉をくぐった。重厚なダンスホールの両開きのドアが開けられると、会場内にいた人々がパッとこちらを振り返り、視線が自然と集まった。
 美しさのベクトルがそれぞれ違う少女が三人が、それぞれに煌びやかなドレスを着て連れ立って歩いているのだ。目立つのは仕方がなかった。


(やっぱり二人は目立つわね…。)


 ここに来てもまだ、目の前で談笑しながら歩いているカレンデュレアとティアラが人々の視線を集めているのだと疑いもしないメアリーナだった。












☆★……………………………………★☆


いつも読んで下さってありがとうございます!
今日以降、2本ずつupします♪(この後30分後に上がります)
8/31日に完結いたします!
よろしくお願い致します‪(՞ . .՞)"‬









 
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