好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

文字の大きさ
上 下
17 / 34

未亡人の正体

しおりを挟む



「ああ、そうだ。君は知っていたのかね?」

「...何をですか。」

「君が懇意にしているレガシー夫人の事だ。」

「...え?」


 何を言われるのかと怖々と顔を上げるロメオを見ながら、フルバード伯爵はずっと目が笑っていない笑みを浮かべ続けている。青年の反応から「なんだ、知らずにやっていたのか」と小さく呟いた。

 

「あの方は、現シルベンツァ公爵の愛妾だよ。」

「あ、愛妾...?妾と言うことですか...?」


 そんな話は聞いた事がない、とロメオは首を傾げた。
 レガシー夫人は故レガシー伯爵が死んだ後も籍を抜くことを許さないと、それは大切に大事に思い未亡人だ。
 妖艶なタレ目とぽってりとした口元に黒子。艶やかな黒髪も年齢を感じさせない透き通るような吸い付く肌も美しく、ボディラインも素晴らしい。
 溢れんばかりの色気を持つレガシー夫人に、街中でロメオは遊んでいた時たまたま声を掛けられ、そのまま関係を持った。

『貴方は見た目が麗しいから、こんなアクセサリーが似合うと思うわ。』

 彼女はレガシー伯爵の遺産を全て継いでいてお金があると言っていて、よくロメオが欲しいものを強請ならくても色々と買ってくれた。例えば今身につけている少し派手なゴールドのカフスも彼女からのプレゼントだった。
 だが愛妾だからと、なんだと言うのだろう。


「そ、それがどうかしたのですか...?公爵ほどの位の方に妾がいるくらいは不思議なことでは無いでしょう?」

「お前はこの国の貴族がを知っているか?」

「法律...?」

「本当に何も知らないのだな。仕方がない、後学の為に教えといてやろう。
 貴族が本妻、もしくは夫以外に妾を持つ場合、それは。」

「...は?」

「その家の血を絶やす訳にはいかぬが、親族にも後継になれるような子どもがいなかった場合及び、双方がそれを許可した時のみだ。
 そして貴族の妾、または男妾となった者にはある枷が付けられる。身分の保証、金銭や産まれる子供に対する確実な保証が得られる代わりに、男妾であれば、浮気相手共々に。」

「う、浮気相手...?」


 サアー、という音が聞こえてきそうなほどに顔色を真っ青にしたロメオを見ながら、フルバード伯爵は言葉を続けた。


「勿論、知らぬ存ぜぬは通用しないぞ。その法律を知らない貴族などいないのが常識だからな。お前の歳であれば、既に学園でも教わっているはずだ。まあ法律学にお前のような見た目と下半身で物事を考えるような輩が興味を持つとは思えないが。」

「そ、そんな、ぼ、僕は、」

 そんなこと知らない、とロメオは言ってしまいそうになるのをぐっと堪えた。馬鹿にされているのだ、本当にそうなのだと言いたくなかった。


「まあ、レガシー夫人にはまだ子供は出来ておらぬようだし、今の時点ではそんな大した刑でもないだろう。公爵家からの慰謝料請求か、鞭打ちくらいなものだ。安心して公爵からの裁きの沙汰を待つがいい。」

「た、た、たかが...っ!たかが、関係を持ったくらいでそんな...!」

「たかが、というが、妾のそのような行為は家の乗っ取りにも繋がる可能性があるのだから思い処罰を受けさせられるのは当たり前のことだろう?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。 いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。 どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。 そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います? 旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

私の婚約者は誰?

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ライラは、2歳年上の伯爵令息ケントと婚約していた。 ところが、ケントが失踪(駆け落ち)してしまう。 その情報を聞き、ライラは意識を失ってしまった。 翌日ライラが目覚めるとケントのことはすっかり忘れており、自分の婚約者がケントの父、伯爵だと思っていた。 婚約者との結婚に向けて突き進むライラと、勘違いを正したい両親&伯爵のお話です。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...