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介入者
しおりを挟むバルティカ男爵の回想より一週間ほど前のこと─。
フルバード伯爵にとって娘の婚約を破棄させる事は、ロメオのやった事を提示すれば済む簡単な作業だった。ただ物理的にはとても面倒な事ではあった。
フルバード伯爵は次の日、両侯爵家より贈られてきたロメオの不貞が書かれている書簡の内容を複写し、一方を持ってテューダーズ伯爵家を訪れた。
到着の一時間前に連絡が来た急な訪問に、テューダーズ伯は不機嫌な顔をしていたが、フルバード伯が持ってきた書類の内容を読み進めていく内に、顔色を悪くした。
だが開き直おり、まとまった紙をテーブルの上に無造作に放り投げた。
「これがどうしたと言うんだ。年頃の男が女と遊ぶ、全くもって普通のことでは無いか。こんな、書類にして持ってくる程の事では無い。」
「…婚約は破棄をさせて頂く。」
「何を馬鹿な事を!元々政略的な関係だ。目くじらを立てる事でもないだろう?寧ろ、女に好かれる男と婚姻を結べるなんて喜ぶならまだしも」
「婚約を結ぶ際の契約書に沿った破棄だ。政略云々などは関係ない。」
「…契約書?」
訝しげな顔をするテューダーズ伯爵に、娘を蔑ろにするような発言に腹が立っていたフルバード伯爵は、鋭い目で彼のみっともなく太った顔をじっと見すえたまま言った。
「やはり忘れていたか。その書類の一番最後に写しを持ってきてやっている。確認してみろ。」
「……。」
テューダーズ伯爵は、テーブルに投げ出した書類をゆっくりとした動作で拾い上げると、一番最後の頁を捲った。そして読み進めると、再び顔色を悪くした。
「書いてあるだろう?
テューダーズとフルバードの婚約は、本人同士の総意にて結ばれるものとする。ただし、不貞が行われた場合は即刻破棄されるものとすると。」
「こ、こんな物は何の法的な意味も」
「あるぞ。それは私の弁護士に介入して造らせたものだ。その署名欄にある見届け人の名前を見てみろ。見覚えがあるだろう?」
「…ファシリーナ・ニア・ラゼ・フィカディア…?……?!そ、そんな…」
はらりはらりと手元から他の書類を落としながら、テューダーズ伯爵は大きく震えていた。
「な、何故ここに女王殿下の名が…!」
「そうだ。見届け人はファシリーナ女王だ。意味は分かるな?王家の介入した婚約だったという事だ。」
真っ青な顔でブルブルと震えるテューダーズ伯爵に対して、フルバード伯爵はニヤリと笑った。
王家の署名が入ったその書類は、この国で最も確かで合法なものだった。
「こ、こんなのは聞いていない!」
「最初から書いてあったものだ。お前が確認を行っただけだろう?」
「な、何故だ。何故女王が…」
「女王殿下は学生時代よりずっとサラの親友だ。
お前がサラに乱暴を振るおうとした時、その直前までサラと一緒に居たのはファシリーナ姫だった。彼女はサラがいる資料室に入って行くお前の姿に不信感を覚え、来た道を引き返した。
あの時、お前は殴られて気を失っていたから気が付きもしなかったんだろうが、サラを助けたのはファシリーナ姫とサラの影だった。
当時、お前が一度投獄されていた時にテューダーズ前伯爵の元には、王家の警告文が届いていたはずだ。そしてサラと接触禁止になったお前を含むテューダーズ伯爵家はリッチェルザム侯爵家の領地の通行を禁止する書簡が。まさか、何も知らずに跡を継いだ訳ではなかろう?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
補足。
夜会で酔っていたテューダーズ伯爵に母が絡まれて、と父が嘘をついているのは、まだ現役学生のメアリーナの事を思っての嘘です。本当は学園内の資料室で強姦未遂が起きてしまっていたからでした…。
学者の血を引くメアリーナは、資料室が大好きで、一番最初にロメオとティファニーの逢い引きを見てしまったのも資料室の窓からでした。
だから、お父さんは資料室でそんな事があったなんて、言えなかったんですね…。
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