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婚約
しおりを挟む「それは…婚約を解消した方が良いということよね…?」
「端的に言うと、まあそうね。」
「……。」
十年だ。ロメオとメアリーナの婚約が結ばれてから、それだけの歳月が流れていた。
最初の頃の、優しく自分に微笑んで手を引いてくれていたロメオは、もうとっくに何処かへと消えてしまっていたけれど。
直近まで恋をしていた相手から心を引き剥がすのには、気力を沢山使うとメアリーナはここ最近ずっと感じていた。
少女は、ロメオの自分に対する『君は可愛くない』という言葉を伝えられた以降、それ迄もずっとじくじくと傷んでいた胸を、修繕する事を諦めてしまった。けれど、心のどこかでまだ彼を好きだと想う気持ちが残っていて完全に消えた訳では無いのだ。
なんてしつこくて煩わしい女なのだろうと、自分が自分で嫌いになっていた。
ずっと言えなかった自分の気持ちを吐き出すように、ぽつり、ぽつりとメアリーナは言葉を紡いだ。
「…私、ずっとずっとロメオの事が好きだったの。子どもの頃から、婚約を結ばれた頃からずっと好きで…。
ロメオに、一緒に歩けば自分が恥ずかしい思いをすると言われた時、それはそっか、なんて思っちゃって何も言い返せなかったけれど。
…本当は、とても惨めで、悔しくて…悲しかったっ…。
彼が選んだ彼女を見て、ああ、やっぱり私では駄目なんだって、思って…。」
でもいつまでもイジイジしているだけでは駄目なのだ。きっと、今の状態では自分は幸せになれないだろうと、メアリーナは分かっているのに。
やるせない気持ちになって、少女が唇を噛んで俯いた時。
「メア。これ以上貴女が悲しむ必要なんてないのよ。」
ティアラが、メアの右手を白いレースの手袋をはめた左手でそっと握りしめた。
「ワタクシ達は、貴女が苦しんでいるのをもう見たくないわ。」
カレンデュレアが、メアリーナの左手を両手できゅっと握りしめた。
その温かさに、メアリーナの目の縁に見る見るうちに涙が溜まり、ぽろりと零れ落ちた。
誰かに気持ちを聞いて欲しかったのだと、メアリーナは、その時になって初めて気がついた。
小さく微笑みを浮かべると、親友達を見回して。
「…父に相談してみないと何とも言えないけれど、婚約を破棄できないか、伝えてみるわ。」
「ワタクシからも、お手紙をお送りするわ。」
「私も送るわ。」
「…二人とも、ありがとう。」
(一度、お父様にきちんとお話をしてみよう…。)
家同士の婚約だ。嫌だと言ってもきっと婚約解消は許してもらえないのかもしれない。
かと言ってこのまま、こんな惨めな気持ちでロメオと結婚することが出来るだろうか?
(できっこないわ…。)
カフェから屋敷へと戻り、メアリーナは早速父の執務室の扉をノックした。
家令が扉を開け、メアリーナの姿を認めるとおや、と言う顔をしたが「父に話がある」と告げればそのまましばらく待たされ、部屋の中へと招き入れられた。
「お仕事中にごめんなさい。お父様。」
「構わない。どうしたんだ?」
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