好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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お馬鹿令嬢

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 そう思い悩んでいる日々が続いている中、遂にメアリーナは避け続けていたロメオと学園内で鉢合わせてしまった。
 しかも、彼はその時もティファニーを連れていた。
 ご丁寧に、腕まで組んで。


(ロメオ…貴方って人は…。)


 メアリーナは、目の前で腕を組んだまま、のように微笑みあっている二人の姿に、胸がズキリと痛んだ。けれど、そんな事はおくびにも出さなかった。教え込まれた淑女の面が剥がれないように、友人達と一緒に歩きながら、一瞬ロメオに頭を下げてその横を通り過ぎようとした時。
 こちらに気がついたロメオが何事も無かったようにメアリーナを無視して行こうとしているのを、何故かティファニーが止めた。そして。



「あら、メアリーナさん。こんにちは。」

「…バルティカ嬢。御機嫌よう。」



 何処か勝ち誇ったような笑みを浮かべたティファニーに話し掛けられたこの瞬間、メアリーナは表面的には穏やかな笑みを浮かべながらも…あのは本当だったのかも、と考えた。


 ティファニーは、最近父親が商人として隣国との大きな取引を成し遂げ、そちらに対する褒賞として男爵位を授けられたばかりのの一人娘だ。

 当たり前だが、王族に連なる学者の一族であり、長い歴史があり由緒正しい伯爵令嬢であるメアリーナよりも、身分は低い。

 けれど彼女はメアリーナよりも先にこちらに声を掛けてきた。学園生活は社会の縮図、つまり身分の高い者から話しかけられるまで話しかけてはいけないというがあるのにも関わらず、彼女はそれをさも当然のように破った。しかも、メアリーナの許していないファーストネーム呼びだ。
 社交界に出た際に高位貴族に同じような真似をしたら、その場にはもう呼ばれる事がなくなってしまうくらいの大きな間違いである。無知だったという言い訳だけでは済まされない問題だった。


(知らないはずは無いと思うのだけれど。)


 もしかしたら、男爵の地位が与えられたばかりでそういった教育が済んでいないのかも知れないということは有り得る。

 だから、やんわりとメアリーナはティファニーに教えようとした。


「バルティカ嬢。挨拶は高位貴族より行われるものです。私は伯爵、貴女は男爵。どちらが先に声をかけて良いのか、今一度良く考えられたほうが良いと思いますわ。
 そして、私は貴方にファーストネームで呼ぶことを許しておりません。」


「まあ…!酷い!」


(…何が?)


 メアリーナの言葉にティファニーは当然小さく悲鳴を上げると、弱々しく隣に立っていたロメオに縋った。


「メアリーナさんは、自分の方が身分が上だからわたくしからの挨拶は受けたくないと…っ、酷いっ酷いですわ…!」

「…は?いえ、そうではなく…。」

「メア、挨拶くらいいいじゃないか。」

 左腕にティファニーをぶら下げたまま、ロメオが面倒くさそうな顔でそう物申してきた時には、メアリーナは流石に閉口した。
 一緒にいた友人達が、小さな声で「何あの二人は。頭がおかしいのかしら?」「おかしいんだと思いますわ。」とヒソヒソ喋る声が後ろから聞こえてくる。

 ちなみに友人達は、ロメオの例の発言を知っているメアリーナがとても親しくしている者達だ。彼らに話し掛けられる前から二人とも、呆れたような蔑んだような目で見ていたのに、どうやらロメオもティファニーもその視線に全く気がついていないようだった。


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