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好きだったのに

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(ああ、本当に初恋って叶わないものなのね…。)





 資料室の窓から、美しく色づいた秋の学園の中庭に目を向けながら。

 十五歳のメアリーナ・フルバードはぼんやりとそんな事を思った。



 授業も既に終わり、放課後の夕暮れ時。その視線の先には、銀杏の樹の下に男女が二人並んでベンチに腰掛けている。 
 二人とも嬉しそうで楽しそうで。
 二階の資料室の真下のベンチで彼らは語り合っていた。


「卒業をしたら君に会えなくなるなんて、とても悲しいんだ。」

「私もよ、ロメオ。」

「本当にそう思ってくれる?ティファニー。」

「ええ、こんなになれたのに寂しいもの。」

「嬉しいな。私も同じ気持ちだ。君とずっと一緒に居られたらいいのに。」

「まあ、…私も貴方と同じ気持ちなんてとても幸せだわ…この手を離したくない…。」





 メアリーナは最近、あんなに柔らかく微笑み、甘く囁く幼馴染のロメオを間近では見たことがない。いつもだ。

 ティファニー・バルティカ彼女はメアリーナ達と同じ学年の生徒で、とても美しい容姿をしていた。
 銀色の緩やかに煌めく髪に、明るい薄水色の大きな瞳。雪のように真っ白な肌と、庇護欲を唆られる細くたおやかな身体。
 そんな妖精のような彼女が微笑みながら見つめているのは、メアリーナの初恋の相手であり幼なじみ兼、家族以外で知っている人はいないけれど、のロメオ・テューダーズ。
 彼も太陽の光を集めたような金髪に、海のような深い碧の瞳といった煌びやかな色に、王子様のような端正な容姿をしていて、彼らが並んでいるとそれはまるで絵画のように神秘的で耽美だった。

 メアリーナは無意識に引っ張っていた自分の色の抜けたような赤毛から指をパッと離すと、窓に背を向けて立つ。
 そして天を仰いで震える喉で大きなため息をつくと、微かに瞬きをした。ぽたり、と一粒の涙がメアリーナ以外は誰もいない資料室の床へと落下をする。

 若葉色の瞳は、今では深く傷ついた様に翳り、既に心は大きく抉られてしまった。


「…結局、ずっとずっと…私の片思いだったのね。」
 

 メアリーナの震える小さな呟きは、誰かに拾われる事もなく。部屋の中にただ吸い込まれて消えていった。












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